淀んだ空、心

今日も空は淀んでいる。私が生まれてから15年。空が晴れ渡っているのを見たことなんてない。どうにも本によると空は青いらしい。そして他の国の空も概ね青いらしい。でも私はこの空しか知らない。

 排気ガスと有害物質によって汚されたキャンバスしか知らない。

 マスクを外して外ではしゃぐ。そんな簡単なことが子供たちはできない。私だってしたことがない。お父さんたちの世代にはそれができたいたらしいけど、今はもうできない。この40年程でそれくらい空気が汚くなったらしい。

 画面の中ではみんなが笑顔で食事をしている。笑顔ではしゃぎまわって海に泳ぎに行ったりする。現実で海なんて見たことがないよ。彼らみたいに恵まれた環境も、仲のいい友人もいない。うらやむだけ自分がみじめになるから、と最近は自分の殻に閉じこもるようになってしまった。家に帰ってもどうせ父親がいるだけ。家事が残っているだけ。今はまだ帰りたくない。特に用事もないけど近くの公園に寄ってみる。

 されど何もする気が起きず廃墟のような公園を素通りする。

 子供の声は騒音だ、と以前は問題となったらしい。だけど子供の声なんて聞こえない。その苦情を言った人は幻聴でも聞こえてたんじゃないかな。

 このまままっすぐ帰れば家に着く。もう少し帰りたくない。一人の時間が欲しい。もう少しだけ、父親と離れていたい。まだ外の方がましだ。

 そうだ、今から学校に戻ったらいいんじゃないかな。忘れ物をしたという体で学校に戻れば言い訳にもなる。宿題を忘れたことにしよう。そうしたらきっと許してくれる。


「ただいま」

 挨拶をしても返事がない。いつものことだ。靴を脱いでマスクを外す。玄関からすぐに浴室へ向かい服を着替える。シャワーを浴びて汚れを落とす。

 今日もお父さんは何もしなかったんだね。

 ため息交じりに独り言をつく。汗でべたべたしていたので下着もついでに変える。下着のサイズが最近合わなくなってきてそれは困る。またお金がかかるから。

 部屋の掃除、料理の下ごしらえ、宿題、それと月末だから家計簿もつけないといけない。今日はアルバイトがないから時間には余裕がある。来年再来年と勉強が難しくなるって聞くからそれは心配だ。別に大学に行くわけでもないから成績は気にしてない。どうせそんなお金もうちには残ってない。赤点を取ってアルバイトに出られなくならなければなんでもいい。

 今日のやることをリスト化して一つずつ消していく。リビングに散らかったものを整理して掃除機をかける。その掃除機の音で父親が起きてこなければいいけど。

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