第6話 反吐が出るような会話

 何もすることがなく、道の片隅に腰掛け煙草をふかす。


 「君可愛いね。お兄さん達と良い事して遊ぼうよ」


 そんな時、まだ夜、七時だというのに女子中学生らしき女の子が絡まれて困っていた。自分には関係ないと思い見てみないふりをしようとしたが、その女子中学生が陽菜とかぶり首をつっこんでしまった。


 「お兄さん達、この子が嫌がってんじゃん。やめてあげろよ。てかさ、お兄さん達、見た感じ俺より年上だよな。恥ずかしいと思わないわけ。こんな自分達より年の離れた女の子に絡むなんて」


 絡んでいた男二人組は図星をつかれたかの様に舌打ちをして睨んできた。


 「餓鬼のくせに、歯向かってんじゃねえぞ。良いか、大人に餓鬼が意見するなんて百年早いんだよ」


 「意見させるようなことをしてるのはてめえらだろうが。いい大人なら餓鬼にこんな事を言わせんじゃねえよ。おい、お前はもう良い。早く行けよ。これから行く所があるんだろ」


 大人相手にそう言って女子中学生を逃がそうとした。


 「はい、ありがとうございます。でも、お兄さんは大丈夫ですか」


 「大丈夫だから早く行け。邪魔だ。怪我すんぞ」


 女子中学生は深々と頭を下げて走って逃げていった。


 「ああ、逃げちゃった。どう責任取ってくれんだよ。せっかく可愛い子だったのに」


 「責任なんて知るかよ。てめえらが無理に絡んでるからいけねえんだろうが。死ね」


 大人二人は一気に殴りかかってきた。高校生相手に大人二人って。とは思ったがそのまま受けて立つことにした。始めは体力があり相手の攻撃もよけることはたやすかった。だけど、長くなるにつれて体力が持たなくて結局、口から吐血し、立ち上がることすらも出来ないほどにやられてしまった。しまいには財布の中身をすべて抜かれた。


 「は、ださすぎんだろ。こんな奴らにやられるとか。うぜえ」


 倒れながら独り言を呟く。


 「お兄ちゃん?」


 どこからか陽菜の声が聞こえた。体は痛くて動かない。


 「大丈夫、お兄ちゃん」


 「お、また可愛い子発見。ねえ、君可愛いね。これから俺達と良い事して遊ぼうよ」


 大人二人は陽菜に手を出そうとしている。何なんだよ、今日は散々だ。


 「お巡りさん、こっちです。こっちで僕のお友達と女の子が大人に絡まれてます」


 そんな時、大声で警察を呼ぶ晴の声が聞こえてきた。


 「やべ、逃げるぞ」


 大人二人は驚いて逃げていった。


 「って、嘘だけどね。じんじん大丈夫?」


 晴はしゃがみ込み俺の事を見てくる。


 「悪い、助かった」


 「やめてよ、気持ち悪いな。お礼とかじんじんのキャラじゃないよ」


 やっと体を起こし鼻で笑った。


 「そうだな、遅えんだよ。てめえは。もっと早く来やがれ」


 「そうそう、それで良いの。じんじんはそうじゃないとね。それより、妹さんだよね。初めまして高橋晴です。陽菜ちゃんのことはじんじんから聞いてるよ。これから宜しくね」


 晴が陽菜に握手を求める。陽菜は俺の後ろに隠れて宜しくお願いしますと言った。


 「お兄ちゃん、帰ろう。今日はお母さん、機嫌良いみたいだから帰って傷の手当てしないと」


 陽菜が心配そうに顔の傷を見てくる。


 「うぜえな。けどまあ、一緒に帰ってやるから行くぞ。晴、またな」


 「うん、またね、じんじん」


 晴と別れて家に帰る。家に着くと義母は陽菜の言う通り機嫌が良いらしく、夕飯を作って待っていた。珍しく父親も帰ってきている。


 「陽菜、お帰りなさい。あら、仁くんも帰ってきたのね。待ってたのよ。それより酷い傷じゃない。手当てしないと。陽菜、手当てしてあげて」


 「うん」


 陽菜は嬉しそうに救急箱を取ってきて手当を始める。義母の機嫌が良い時はいつも平和だ。


 「仁。喧嘩するのは良いが、世間の目も考えろよ。お父さんはな、お前の知っての通り、政府に関係するような仕事をしているんだ」


 「うるせえな。仕方ねえだろ。いい大人が女子中学生に絡んでたんだからよ。俺だって喧嘩したくてしたわけじゃねえよ。政治家ならそう言う大人もなんとかすれば良いだろ」


 出来ないことぐらいわかっていた。だけど言わずにはいられなかった。


 「二人とも。せっかく家族がみんな揃ったんだから仲良くしなくちゃ駄目よ」


 義母の言葉に白々しさを感じた。家に寄りつかせなくしているのは誰のせいだと思っているのか。義母が真面目で優しい母親ならいつも帰ってくるっての。それでも今は、嬉しそうな陽菜を守りたくて言い返すことをやめた。


 「出来たよ、お兄ちゃん」


 「ああ」


 手当が終わり、夕飯が並べられた食卓に着く。陽菜は俺の隣に座り父親は義母の隣に腰掛けた。


 「今日は学校、どうだったの?」


 「うん、今日は、図書室で面白そうな本を見つけて借りたよ」

 反吐が出るような会話だ。普通の仲の良い家族なら幸せな会話なのかもしれない。だけどうちは違う。この会話の中にも権限は義母が握っていて陽菜は義母の顔色を無意識のうちに伺いながら話している。


 「仁はどうなんだ。ちゃんと授業は受けているのか」


 「うるせえな。別にそんなのどうでも良いだろ。成績さえ良ければ」


 父親はそれもそうだなとあまり関心を示さない。父親にとっての俺という存在はそれだけのものだ。


 三十分後、食事は終わり陽菜は義母に言われる前に後片付けを始めた。


 「おい、手伝ってやろうか」


 結構多い食器の数に大変そうに思った俺はそう声をかけた。


 「うん、ありがとう、お兄ちゃん。私が洗うから拭いて貰っても良いかな」


 「ああ」


 陽菜が洗った食器を拭いていくという作業を始める。


 「なあ、何であの時、あそこに居たんだよ」


 「えっとね、お母さんに、久々にみんなでご飯が食べたいから呼んで来てって言われたの。お義父さんもお母さんに呼び出されたみたい」


 だから父親も居たのか。まあ、そうでもなきゃ、帰ってくるはずもないか。


 「終わった。ありがとう。お兄ちゃんが手伝ってくれたからすぐに終わっちゃった」


 「陽菜、お風呂沸いたから入りなさい」


 食器洗いが終わった頃、義母が陽菜にそう言った。


 「うん、わかった」


 陽菜はとにかく嬉しそうに返事をすると、また後で沢山お話ししようねと言って風呂場に向かった。俺は自室に向かい持ち歩きの音楽プレイヤーにヘットフォンを装着し付けた。結構大きめの音で音楽を流しベッドに横になる。


 さっきまでは散々な日だと思っていたが、義母の機嫌が良い日は陽菜に当たらないから平和だ。毎日こんな日が続いてくれれば良いのに。


 そんな事を考えていると部屋の扉が開かれ陽菜が入ってきた。


ー続くー

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