第5話 後腐れなく

 翌日、巧より少し早く家を出て陽菜を中学に送る。


 「お兄ちゃん、行ってきます」


 「ああ、さっさと行け」


 陽菜が俺から離れて校門に入っていく。


 「竜崎さん、おはよう」


 「えっと、あの。九条くん、おはよう」


 陽菜に話しかけたのは同級生の九条涉。何度か家で会ったことがあり、俺も知らない男じゃない。どうやら九条は陽菜に好意を持っているらしく俺に対して無駄な敵対心を向けてくる。


 「さてと行くか」


 高校に向かい真っ直ぐ教室に向かう。結局教室に着いたのは一時間目の授業が始まってからだった。


 「竜崎、一之瀬早く座りなさい」


 「うっせえな」


 ちょうど歴史の授業中で席に着くと机に伏せて目を閉じた。


 「おい、仁。昼だぞ」


 「あ、んだよ」


 巧に起こされて目が覚める。


 「昼、食おうぜ」


 学食に巧と向かい適当に選んで空いている席に腰掛ける。


 「ねえねえ、いっちいに竜くん。一緒に食べようよ。良いでしょ?」


 同級生の女子二人が同じ机の席に腰掛けた。


 「勝手に座ってんじゃねえよ。ブスが」


 「きゃあ、竜くんにブスとか言われちゃった。どうしよう。めっちゃ嬉しいんだけど」


 その同級生は清楚という感じではなくてどちらかというと俺と同じ遊んでいる感じの子だ。


 「もっと暴言吐いても良いんだよ」


 「暴言吐かれて喜ぶとかとんだ変態女だな」


 俺の言葉にまた喜んでしまい、何故かその態度に苛立ちを覚える。


 「てめえ、いい加減にしろよ。死ね」


 「もう、仁やめとけって。喜ぶだけだろうし。そんで、子猫ちゃん達、俺達とご飯が食べたいのかな」


 巧は女の扱いが上手い。男に対してはたまに暴言を吐くが、異性に対しては優しくが信念らしく一切暴言は吐かない。


 「いっちい優しい。あのね、今日、学校終わったら、カラオケでもどうかなって思ってて。どうかなあ?」


 「カラオケか。まあ、俺は良いけど。仁はどうするよ。ほら、もしかしたらその後、犯せてくれるかもよ」


 巧が俺の耳元で話しかけてくる。


 「そういうの良い。間に合ってるし」


 「え、行かないのかよ。どうせだし行こうぜ。今日は家に帰るつもりないんだろ」


 確かに今日は学校が終わったら繁華街でぶらつこうと思っていた。そしていつものように晴と会い、そのまま二人で過ごそうと思っていた。


 「そうだよ。行こうよ。竜くんが来てくれたら奈々嬉しいな」


 「てめえが嬉しいかどうかなんてことは聞いてねえんだよ。黙れ。でもまあ、確かに今日は学校終わったら暇だし仕方ねえから付き合ってやるよ」


 巧が俺の肩を抱き久々だなと言った。


 「うぜえ、暑苦しい。離れろ。男にくっつかれても嬉しくねえっつうの」


 「ありゃ、そうかい。それじゃ、子猫ちゃん達、カラオケに行ったら仁にくっつき放題だぞ。良かったな」


 「とあ嬉しい。奈々っちも良かったね。仁くん狙いだもんね」


 聞きたくもない情報だな、それ。嬉しくもなんともない。女と付き合うとか面倒くさい。後腐れ無く抱ける都合の良い人の方が良い。そう考えると美咲はいい女だな。お互いに身体以上は求めないし、好きなときに抱かせてもらえる。


 「もう、とあったらなんて事言うのよ。そういうとあはいっちい狙いのくせに」


 「やっだあ、言わないでよ」


 巧は満更でもない顔だ。化粧で誤魔化しているような女の何処が良いのか。俺にはよくわからない。


 それから数時間後、放課後になりカラオケに向かい食べ物を頼む。


 「ねえ、知ってた。竜くんといっちいって意外ともてるんだよ。ただ、外見がそんなだから声をかけずらいだけで。奈々ととあも、相当勇気出したんだから」


 「まじか。モテ期到来ってか。どうしよう、仁。俺達、女の子に困んねえって」


 巧はとにかく嬉しそうだ。


 「お前が嬉しくても俺はどうでも良い。正直、興味ねえな。今の所、後腐れなく犯らせてくれる女もいるし。巧が二人の相手してやれよ。お前もそれなりに遊んでんだろ」


 「まあ、俺はそれでも良いけど。仁は妹ちゃん大好きだもんね。そう思うのも仕方ないか。女の子で唯一優しくする子だもんな」


 こいつは何を言い出すんだ。


 「俺がいつ、陽菜に優しくしたよ。優しくした覚えなんかねえし。いい加減なことをぶっこいてんとてめえでもぶっ飛ばすぞ」


 「いや、だってさ。暴言吐きはするけど、ちょっとした優しさって言うのがね。見え隠れというか。陽菜ちゃん、可愛いから仕方ないと思うけど」


 巧を睨み付け、優しさなんて出してねえって言ってんだろと言った。


 「ありゃ、そうなんか。それじゃ、今度陽菜ちゃんと犯らせてくれよ」


 巧の態度に腹が立ち、殴りかかった。


 「ちょっと仁くん、やめなよ。暴力は良くないって。巧くん、大丈夫?」


 「うぜえんだよ、ブスは黙ってろ」


 俺の言葉に女の一人が酷い、酷いよと泣き出した。


 「ああ、泣かないで。俺なら大丈夫だから。もう、仁は冗談にそこまで怒ることないだろ。子猫ちゃん達、カラオケって感じじゃなくなっちゃったし、先に帰ってて良いよ。ここは俺達が払っとくからさ」


 「行こう、奈々っち」


 女子二人は部屋を出て行った。


 「作戦大成功」


 巧がにんまりと微笑んでいる。


 「良かったじゃん。今日、上手く行ってたらまた別の日も誘われてめんどいことになってたぞ」


 「ちっ、面倒なことに陽菜の名前を使いやがって」


 何となくわかっていた。巧の考えそうなことだ。ただ、突然陽菜の名前を使ったから何を考えてるんだとは思いはしたが。


 「どうするよ、二人で歌っていく?」


 「歌わねえよ。もう行く」


 カラオケの料金を半々に支払い外に出る。


 「これからどうするんだよ。またうちに来るか。どうせうちの親、今日も居ねえし」


 「良い。適当に外で過ごすわ」


 巧とはそう言って別れた。


ー続くー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る