第2話 友人

 「来たわね。いらっしゃい、仁」


 「こんな所で教え子襲って本当に変態教師だな」


 そう言いつつも美咲に近寄り、口を重ねた。


 「好きよ、仁。愛しているわ」


 「は、勝手に言ってろつうの」


 美咲が上になり制服のボタンを外して一枚一枚脱がしていく。そして美咲は体に跡を残すように口づけを堕とす。


 「お小遣いあげるわ」


 事情後、制服を着ているとそんな事を言われた。


 「別にいらねえよ。くそじじいから貰ってるから」


 俺の父親は、政治家でとにかく金銭面では何も困っていなかった。本当は高校も行かないつもりでいたが、世間の目が気になる父親にどうしても行ってくれと言われ仕方なく通っている。


 「んじゃ、俺もう行くから。お前も早く服着て出てけよ。事がばれても知らねえぞ」


 美咲をその場に残し一人で視聴覚室を出て行く。


 今日も家に帰る気にはなれず繁華街をぶらつくことにした。道の隅にしゃがみ込み、煙草をふかす。夜の二十二時を過ぎた頃か。柄の悪い男の人三人組に絡まれた。


 「たく、面倒くせえな」


 小さな声でそう呟き、弱いふりをしてその三人の話を聞く。


 絡まれるのは初めてじゃない。むしろ中学の頃から絡まれている。あの頃は本当に喧嘩も弱くて財布を取られたりしていた。それが悔しくて夜の街にぶらつく男に自分から喧嘩を売りに行ったりした。すると喧嘩のやり方がわかり、自然と上達した。


 「坊ちゃん、こんな所で粋がって煙草なんてふかしてたら痛い目に遭うぞ。見逃して欲しいなら、財布置いて今すぐ逃げろよ」


 「ご、ごめんなさい。俺、いや、僕。今から帰ろうと思っていたところで。だから、見逃して下さいなんて言うと思ったかよ。この野郎。いっぺん死んどけ、あほが」


 始めは弱い口調で話し、相手を油断させてから途中、怒鳴るようにそう言うと相手の一人を思いっきり殴った。男は突然のことで体を倒し仲間の二人が殴りかかってくる。それをよけて殴るとやり返してくる。


 「なになに。じんじん、また喧嘩してるの。それなら僕も混ぜて」


 「晴、てめえ、俺の獲物に手を出したら許さねえぞ」


 晴は俺の言葉を聞かないふりをして喧嘩に混ざってきた。晴も加わり相手を立てなくなるほどに殴りその場から逃げた。


 「何で来んだよ。くそ、邪魔しやがって」


 路地裏で機嫌悪く煙草に火を付け煙を肺に入れて吐き出す。


 「だって、楽しそうな声が聞こえてきたからさ。ついね。それよりじんじん。煙草、辞めた方が良いと思うな、僕は。身長止まるとか言うし」


 晴はそう言うと口に咥えていた煙草を取り上げて捨ててしまった。


 「てめえには言われたくねえな。人殺しが」


 「確かに僕はそうだけど、自分の体に害のあることはやってないよ」


 晴とは中学の頃、夜遊びをしている時に出会った。晴には小学三年の頃、産まれて間もない弟が居た。始めはその弟を可愛がっていた。だけど、母親が弟の育児に行き詰まってしまって、毎日涙を流して酒に溺れるようになった。そして、事件は起きた。ある日、弟が夜泣きをして母親が貴方なんて産まなければ良かった。死んでしまえば良いのにと泣きながら叫んだ。それを聞いた晴は台所から包丁を取り出し母親に大丈夫だよ、まま。僕がままを守ってあげるからと弟を刺殺した。


 そんな事情を晴から聞いた時、自然と驚きはしなかった。俺だって陽菜を虐待する義母とそれから逃げる父親に何度殺意を感じたかわからない。そしていつか、二人を殺害したら自分もこの世を去ろうと考えていた事もあるぐらいだ。


 「だから、じんじんも禁煙した方が良いよ」


 「うるせえな、ほっとけよ」


 晴は根っから悪い奴じゃない。自分の体には気を遣っているし、自分の敵だと思わない相手には暴力を振るわない。むしろ、仲間想いな方か。


 「あ、その痕、みいちゃんにつけて貰ったんでしょ」


 ちなみに晴も美咲と関係を持っていて、結構な頻度で関係を重ねているみたいだ。


 「別に良いだろ、そんな事どうでも」


 「んま、僕は気にしないから良いけどね。みいちゃん、可愛くて美人だからもてることも知ってるしね」


 晴は微笑んでみせる。取りあえず俺は煙草を吸うことをやめ、晴の話を聞いた。


ー続くー

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