第4話 重なる出会い
ヒロイン視点
私、若葉 花咲音に前世の記憶があると気付いたのは今から1年前、中学三年生になる少し前のお昼頃でした。
私はその時風邪を引いていて、熱がありました。頭がズキズキと痛んで部屋のベットで蹲るように寝っていた時、
『大丈夫?どこか痛いの?』
心配そうにするその優しい声音が頭の中で響いた時、私の中に誰かの記憶がある事に気付きました。
いつの間にか意識は夢の中に落ちていて、熱による不快感は既に残っていませんでした。
夢を見ました。儚くて脆い、けれども真っ直ぐな少女の夢です。
何も生み出すことも捨てるものすら無い、空白のキャンバスを何時までも眺めているような寂しく虚しい人生。
そこに現れたのは読書が好きで少しお喋りさんな同い年の男の子、少女のキャンバスは彼の色で彩られた。彼女にはその色だけで良かったんです。充分すぎるほどでした。
そんな淡い色で塗られたキャンバスは全て塗られることはありませんでした。
少女は最後まで彼のことを想っていました。その幼い魂に鮮烈に刻まれた想い出と少しの後悔は消えることはなく、そして私に受け継がれたのでしょう。
目が覚めると熱は引いていて私は少し混乱しながら、知っているのに知らない天井を眺めていました。
「、、、知らない天井だ……」
そして彼が持ってきた漫画のセリフをつぶやきます。
夢にしてははっきりとした体感がありました。気付けば私は涙を流していて完全に少女、涼風 桜は私の一部になっていたんです。
今思えば前から兆候はあった気がしますね、窓から見える知らない街の風景を知っていたり、何故か見たことも無い漫画や小説を好きになっていたり。
という事は私の中には前から涼風 桜がいたんでしょう。
ふと気になって今日の日付を見ればなんと私が死んだ日から二年しか経ってません。私は今中学二年生で14歳という事は私と同い年ということです。
何故
ただ彼の記憶が残っていることを喜びました。
私は桜が自分が住んでいた町が何処にあるのかは知りませんがここでは無いことは流石にわかってしまいました。
寂しさを感じた私はとても彼に会いたくなりました。しかし私は彼のお家にさえ行ったこともなく土地勘なんて微塵もありません。
瞬間にこれから彼に会うことは無いのだろうと思ってしまいました。それから家族には前世の記憶のことは話さず自分の恋心に蓋をして中学校生活最後の1年を過ごした。
こんなに胸が苦しくなるなら記憶なんて想い出さなければ良かったと考えたこともありましたが、幸か不幸か中学校生活最後の1年はほぼ勉強漬けの毎日でした。
私は勉強は苦手ですが要領は良かったので少し苦労はしましたが家から最も近いここら辺では少し有名な進学校に入学することが出来ました。
そんな、今となっては懐かしいなと考えながらイヤホンから流れる音楽に集中しているといきなり肩を叩かれました。誰かが読んでるみたいです。
(誰ですかいきなり、いい思い出に浸っていたのに、しかも不躾に肩触ってき、て、、)
振り替えると私のよく知る顔がそこにはありました。
(え?)
私は今過去一番と言っていいほど動揺していました(なんなら前世の記憶を取り戻した時よりも)。
何故ならもう会うことは出来ないと思っていた私の想い人が、私が入学した学校のクラスメイトでしかも私の隣の席でさらに二人きりの状況で声をかけられたからです。
(えっ?もしかして晴人くん!?えなんで?!!どうして?)
もしかして凄いそっくりさんかなと冷静になって少し考えながら彼が置いた鞄に目を向けるとそこには、とても見覚えのある形の猫さんがストラップになって鞄からぶら下がっていました。
(あれって、私の髪留めの、、)
そしてそっくりさんなんかじゃない本物の晴人くんだと気付きます。
(やっぱりあの晴人くんだ、また会えるなんて、)
背は伸びて体も三年前より大きくなっていましたがこの顔、表情そして声は紛れもなく彼そのものでした。
私はこの時泣きそうな顔を見せまいとしてそっぽを向いて俯いてしまいました。
そしてとりあえず返事をしなくちゃと思ったのですが、何を言えば良いのか全然分かりませんでした。
私の口から出たのは
「…………ヨロシク」
と小声でこれだけ。
(あーーーー!!私のバカバカバカっ、なんじゃその返しはーーーー!!)
私は不甲斐ない自分に後悔しながら彼が出した手を引っ込めて席に座るのを見ることしかで出来ませんでした。
晴人くんは気まずい空気に耐えられなかったのかジュースを買いに行ってしまいました。
そのうち他の人も教室に入ってきて、みんな挨拶などをしているうちにもう一回話しかけるタイミングを失ってしまい気まずい雰囲気のまま入学式が始まってしまいました。
一応返事はしたし隣の席なので話しかける機会はまだあるはずです。そう考えながらもこう思わずには居られません。
「晴人くんに嫌われて無いといいな……」
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