第2話 再悔
主人公視点
四月七日、この日を迎えるたびに脳裏に焼き付いて離れない彼女の姿を想い出して俺は憂鬱な気分になってしまう。
俺の初恋の人、涼風 桜はもうこの世にはいない。
3年前の今日俺が中学校の入学式で新入生代表のスピーチをしている時に容態が悪化し、手術を受けるも意識が回復する事はなかった。
知らせを受け俺が駆けつけた時には既に彼女は息を引き取っていて、冷えきった手を握り話しかけてもいつもの様に笑って話し返して来ることはなかった。
いつもは布団に隠れている身体はほとんど骨と皮だけの様に痩せていて、俺と会う時には頑張っていつも通りを演じてくれていたことを悟った。
ただ呆然と現実を受け入れられないでいると、廊下を走る音が聞こえて来て、息を切らしたスーツ姿の男女二人が霊安室に入って来た。
きっと桜のご両親だろうと思った、女の人の顔の雰囲気が彼女そっくりだったからだ。
ご両親達は僕の手ごと桜の手を握ると「さくらぁぁー」と泣きながら名前を叫んだ。俺はその悲痛な叫び声と二人の手の温かさが引き金になり涼風夫妻と一緒になって泣いた。
帰る時に涼風夫妻呼ばれて一緒に彼女の病室の遺品整理をすることになった。彼女の持ち物には遺書などの類はなく、多くのものは彼女に渡した本の類いがほとんどで他はスマホと少しのアクセサリーと化粧道具だった。
枕にふと目を向けると白いまくらカバーの中に何やらカラフルな色が透けているのが見えた。そこには僕が渡したヒーロー柄のハンカチが大事そうにビニールの封筒に入っていて、俺はまた泣いてしまった。
遺品は全て俺に貰って欲しいと渡して来る涼風夫妻に遠慮して俺は桜がほとんどいつも会うときに着けていた猫の髪留めだけ貰い、他のものは受け取りを辞退した。ハンカチも仏壇に備えてくれたらと言った。
猫の髪留めはストラップに改造して今は俺の鞄に付けられている。
桜との想い出はどれも大切なもので忘れることなど出来ない。しかしあまりにも悲しい失恋のショックで暗くなってしまい、中学校では3年間友達の一人も居ない寂しい中学生活を送ってしまった。
そして今日は高校の入学式である。友達が居なかったのと桜に医者になると話していたこともあって、勉強を頑張っていた俺は桜への未練を断ち切ろうと病院からは離れたところにあるかなり偏差値の高い高校に入学することにした。
高校から徒歩15分くらいのところにアパートを借りてそこに一人暮らしすることにした俺は折角だから早めに教室に着いていようと朝早くにアラームをセットしておいた。
朝ごはんを食べて歯を磨いたらいつもより念入りに身だしなみをチェックする。中学校の時は上までボタンを閉めて髪が長かったのを、制服は校則違反にならない程度に崩して、昨日美容院に行って切ってもらった髪をしっかりセットする。これで第一印象は大丈夫なはずだ。
家を出て少し経つとピンクの花びらが風に吹かれて舞う。
「桜……」
この桜並木を辿って行くとだんだんグランドが見えて来て学校に着く。この学校の桜並木は県内でも有名らしく校門前はピンク一色だ。まだ朝早いので空気が澄んでいてとても気持ちがいい。
誰も居ない道を歩いていると校門前で桜を見つめる生徒を遠くに見つけた。灰色のパーカーを着ていて顔は分からないがスカートを穿いているので女子生徒だろう。
俺は何故か彼女のことが気になったが、道端に真っ白な猫が歩いているのを見つけて直ぐに視線を猫に向けた。猫は桜など見向きもせずに学校の反対側にある住宅街へと入って行った。
ふただび校門に目を向けるとさっきの女子生徒は消えていた。
昇降口前にはクラス分けが貼ってあって見ると俺のクラスは1年2組だった、1年生の教室は教室棟の3階で一番上の階だ。
若干長い大階段を上り1年2組の教室に向かう。扉を開くとさっきの女子生徒が窓際一番後ろの席で窓の外を眺めながら座っていた。
音楽を聴いているのかイヤホンを耳にしていて俺が教室に入ったのに気付いていないようだ。
(あの人、クラスメイトだったのか……俺より早く来てる人がいるとは……)
(それよりも俺の席はどこかなっと、、、うん?)
俺は黒板に張り出されている席順をみて驚く、なんとあの女子生徒の隣の席だ。
(なんというか、座りにくいな、男子だったらもうちょい話しかけ安かったんだけどなぁ)
(いや、これは神様が早く未練を断って友達を作れと言ってるのかな?えーと名前は……)
俺は勇気を振り絞って声を掛けることにした。
「あのー、あのー!」
本気で俺に気付いてなくて緊張しながら肩を叩いて話し掛けたら気付いて貰えた。
「えっ?あっ、」
いきなり話しかけたのでイヤホンを取る手が引っかかってパーカーのフードもとれてしまったようだ。
フードをとった彼女の顔かなり整っていた。少しだけ長い前髪から覗く茶色の瞳は大きく白過ぎず褐色すぎない健康的な血色のいい肌に黒のロングヘアが映えていた。
黒髪長髪というところに桜の姿が重なって見えて一瞬息を止めてしまった。
「あー、えーと
鞄を机の上に置きながらどもらないように意識して自己紹介をしながら手を差し出す。多分同年代の女子と会話するなんて桜と以来だろう。
握手は流石になかっただろうか?緊張で少し掌に汗が滲む。
(じーーーーー、、、ぷいっ)
「…………ヨロシク」
若葉さんはじーーとこっちを見たかと思うと鞄の方をチラッと一瞬見て、フードを被り直してからそっぽを向いてしまった。
一応返事は貰えたようだが、これは絶対に嫌われただろ……
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