第2話 ヤンデレの始まり


「ちょっと待って、流石に捨てるのはどうかと思うよ......」


 秋山さんがいるいない関係なしに、物を捨てると言うのはどうなのかと思った。すると、秋山さんが悲しそうな表情になる。


「私よりフィギュアを選ぶのね......」

「ち、違うよ」


 秋山さんの表情を見て、慌てて否定をする。


「なら、捨ててもいいよね?」

「......」


 俺は何も言い返すことのできないまま、秋山さんがビニール袋の中にフィギュアを入れているところを見ていた。


 そして、秋山さんが全てのフィギュアをビニール袋に入れ終わったところで話しかける。


「あ、秋山さん。できれば捨てるじゃなくて、実家に送るとかじゃダメかな?」


 俺の問いを聞いた秋山さんは、徐々に目のハイライトが無くなって行った。


「ふ~ん。やっぱり私よりフィギュアの方が大切なんだ......」

「ち、違うよ。秋山さんよりフィギュアを取るなら、そのまま家においてもらうよ」

「じゃあ、なんで捨てないの?」

「それは......」


 秋山さんは首を傾げてこちらを見て来た。


(やばい、話の流れでここまで来ちゃったけど、どうしよう?)


「......」

「どうしたの?」


「いやね? 日本には、古くから人形を無下に扱ったら、祟られる可能性があるって伝承があるでしょ? フィギュアだって一緒。みんなの認識には人形って印象はないかもしれないけど、フィギュアもれっきとした人形なんだ」


 俺はとっさに思いついた理由を伝えると、秋山さんは少し考えた素振りを見せた後に言う。


「それは私のことを考えて言ってくれたってことだよね?」

「うん」


 すると、顔を赤くした秋山さんが俯きながら言う。


「ゆう..二宮くんがそこまで言うなら実家に送るってことで許してあげなくもない」

「あ、ありがとう」


(これで、俺の嫁であるフィギュアを守ることが出来た)


「だけど、私も妥協してあげたんだから、一つお願いがあるの」

「ん?」

「秋山さんって言うのはやめて」

「じゃあなんて呼べば......」


 俺は首を傾げながら秋山さんの方を見る。


「みゆって呼んで」

「え......」

「だから、私のことはみゆって呼んで!!」

「あ、分かった」


 俺が了承すると、俺の方を見ながら言われる。


「私もゆうきって呼ぶから」


 内心ドキッとする。


「お、おう」

「後、連絡先を聞いてもいい?」

「あ、あぁ」


 俺は携帯を取り出してみゆと連絡先を交換する。すると、みゆは満面の笑みになりながら俺の方を見て来た。


「今日はこれ以上部屋に長いしても悪いし帰るね。明日の夕食から作るから楽しみに待ってて」

「うんありがとう。バイバイ」


 みゆは手を振ってきたため、俺も振り返す。


(可愛いな)


 そして、みゆが部屋を後にした。


「それにしてもみゆって、少し主張が激しいタイプかな?」


 俺はそう思いながらも、みゆに捨てられては困るものを整理整頓して、夕食にはカップラーメンを食べてから就寝した。


 翌朝。身支度を済ませてから学校に向かい、教室の中に入ると、すでにみゆが席に座っていた。


(学校では、苗字呼びの方が良いよな)


「おはよ。秋山さん」

「......」

「??」


 俺は自分の席に座ると、上野くんが話しかけてくる。


「二宮。おはよ」

「おはよ。上野くん」

「君付けなんてよせよ。友達だろ」

「そ、そうだな」


 上野の言う通り、友達に君付けをするのはいかがなものかと思ったため、頷いた。


「それにしても、俺の忠告を無視して二日目から氷の天使に話かけるなんてやるな」

「あはは」


(みゆが家政婦をやってくれているなんて、口が裂けても言えない......)


 その後、二人で雑談をしていると、隣のクラスから二人の女子が話しかけてきた。


「蒼くん!! 隣の子が昨日言っていた子?」

「おう」


 上野と話している女の子は、ショートカットで可愛らしい雰囲気を出している子で、もう一人の子は眼鏡をかけていて、大人しそうな子であった。


 そう思いながらも、俺は首を傾げながら二人の様子を見ていると、上野と話している女子がこちらを見て来た。


「蒼くんの彼女をしている石川愛です。隣の子は、昨日友達になった木下鈴ちゃん!! よろしくね」

「あ、うん。俺は二宮優輝。よろしく」


 すると、木下さんが少しこちらを見てきながら言われる。


「宜しくね......」

「う、うん」


 俺たち四人で軽く雑談をして、ホームルームが始まる少し前になったところで二人はクラスを後にした。


 そして、一瞬みゆの方を向くと、目のハイライトが無い状態でこちらを見て来ていたのを見た俺は、体中から悪寒が走った。


 俺がみゆの方を見ていると、携帯をいじり始めた。すると、携帯が鳴りだす。


{休み時間、廊下に来て}

{う、うん}


 なんだろうと思いつつも簡潔に返答をする。その後ホームルームが始まり、軽く本日の内容を伝えられた後、休憩時間に入る。それと同時に、みゆがこちらを見つつ、教室を出たため、俺も後をついて行く形で教室を後にした。


 人気のいない場所にたどり着くと、みゆがこちらを見てくる。


 みゆの目からハイライトが消えており、ジト目でこちらを見て来ていた。


「聞きたいことは色々あるけど、あの子と何を話していたの?」

「え?」

「私さえいればよくないの?」

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