第15話 脳筋姫、魔王に会う
ゴランに負けたとはいえ、カレンは非常に晴れやかな顔をしていた。
「荒削りとはいえ、筋がよいですな。魔王様が恐れられたのもよく分かります」
ゴランが右手を突き出してカレンを褒めると、
「魔族もいい奴が居たものね」
カレンも右の拳を差し出し、ゴランの拳と突き合わせた。まるで武闘家同士の健闘の称え合いである。その姿をグミとケイルがぽかんとした表情で眺めていた。グミは本来の姿であるスライムなので表情は分からないのだが。
「確か、ビボーナ王国の王女カレンだったな。魔王様の所まで案内する。ついて参れ」
ゴランはくるりと振り返って歩き始める。カレンが珍しくおとなしくその後をついて行く。驚いたグミだったが、ケイルとお供二人と一緒に後について行った。
目の前に現れた城は、魔族とは思えないくらい、人間の国の城のようにきれいな外観をしていた。黒い雲で覆われてはいないし、蔦が絡みまくっている様子もない。外壁は眩いくらいに白く、屋根の色は濃紺のようだ。
カレンは非常にわくわくしていた。自分を殺すように仕向けた人物がどんな魔王なのか、その顔を一発殴りたくて浮かれているのである。どこまでも脳筋なお姫様なのだ。後ろをついて行くグミは、その姿をハラハラドキドキしながら見守っている。
「……なぁ、あの人間、本当にお姫様なのか?」
「間違いなく、ビボーナ王国王女カレン様よ。あたし、暗殺に失敗してからずっとついてるんだから」
ケイルは言葉が完全に砕けるくらいに疑いたくなってしまった。それくらいにカレンが、一般的なお姫様像からかけ離れているのである。
「お勤めご苦労である。アサシンスライムのグミ殿が戻られた。陛下にご拝謁する事は可能か?」
「はっ、陛下はずっとお待ちでございます。ささっ、お通り下さい」
ゴランが確認を取ると、門兵はあっさりと中へと通す。魔王に次ぐ実力があると言われているゴランの信用度が窺い知れる。
「ところで、ゼリア殿は本当にビボーナ王国に残っておられるのですか?」
ゴランが振り返ってグミに尋ねる。
「はい、カレン様のフリをしております。カレン様はあまり表に出られなかったらしいので、適当に理由をつけておけばばれないでしょう」
「ふむ……」
グミの返答を聞いて、ゴランは押し黙った。その沈黙を引きずったまま、6人は魔王が居る部屋へとやって来た。内密の話という事で玉座の間ではないらしい。ここで、ケイルは以下の2人は下がるようにゴランから言い渡される。2人はそれにおとなしく従い、ここからはカレン、グミ、ゴラン、ケイルの4人となった。
魔王の居る部屋の前に立つと、ゴランが扉をノックする。
「魔王様、ゴランでございます。例の客人が到着されたので陛下の元まで案内して参りました」
ゴランがこう呼びかけると、中から声が聞こえてくる。
「そうか、ご苦労。中へ入れ」
「はっ、失礼致します」
中から聞こえてきた声はなかなかに若かった。
扉を開けて中へと入る。そこに居たのは、肌が黒っぽい非常に若い男性だった。よく見れば頭に角が生えているし、なんなら背中に黒い翼も持っている。まさしく魔王という風貌をしていた。
その姿にカレンは絶句していた。なんせ程よい筋肉質の美形なのだから。カレンもやはり乙女のようである。
「ほぉ、お前がカレン・ディエ・ラ・ビボーナか。実物はなかなかな見目をしておるな」
魔王は椅子に座したまま話し掛けてくる。だが、カレンは魔王に見惚れているようで、反応がない。そこで、グミが代わりに反応する。
「はいそうです、魔王様。カレンはちょっと驚いているようですので、代わりに答えた事をお許し下さい」
「構わぬ。ここに来た人間はそやつが初めてだし、驚くのも無理はなかろう」
魔王は寛大だった。
「しかし、グミよ」
「はい、何でしょうか、魔王様」
カレンの様子が変なので、魔王はグミに話題を振る。
「ゼリアは別行動なのだな」
「はい、ご報告にも上げた通り、カレンの代わりを務めるためにビボーナ王国に残っております。なんでももう家族には知られてしまったようですが、仲は良好との事です」
「うむ、ゼリア本人からも報告は受けている。ビボーナ国王から和平の申し入れもあったくらいだ」
「ほ、本当でございますか?!」
魔王とのやり取りの中で、予想外な話を聞いてグミは驚いている。
「人間どもの国も一枚岩ではないからな。ましてや周りは敵対国ばかりらしい。ならば一番驚異の我らと戦わずに済むのならいいと考えたのだろう」
「という事は、お姉ちゃんの話をまともに聞き入れたってわけでございますね」
「そういう事になるな。まぁ、本当に和平を結ぶかは、そこの娘の態度次第になるわけだ」
魔王はカレンに視線を向ける。それにつられてグミも視線を向ける。だが、カレンはいまだに呆けているようだった。その様子に、グミはどうしようかと頭を悩ませる。だが、旅疲れもあるだろうからと、魔王の命令でカレンを客室へと案内する事になった。
カレンはまだ呆けていたが、グミが外套に化けて無理やりにでも部屋へと案内した。
先が思いやられるなぁと、グミは盛大なため息を吐いたのだった。
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