第14話 魔族領での出迎え

 ついにカレンは魔族領へと達した。

 森からゲートを通って移動した先は、なんと魔族が住む都だった。あっちもこっちも魔族だらけで、カレンは異様に興奮している。

「ねぇ、殴っていい?」

「やめて!」

 カレンが笑顔で物騒な事を言うので、グミは必死に止めた。だが、外套でいくら動きを制限しようとも、それを物ともせずに動いてしまうカレンに、ケイルは目を見開いて驚いていた。ケイルについて来ていた二人も同様である。

「ほ、本当に人間なのか?」

 グミは地面に張り付いて動きを制限しようとしているのに、カレンに引きずられていっている。これで驚くなというのが無理な話だ。

「ね。あたしが一撃で倒されたのが事実だって分かるでしょ?!」

 グミは必死に叫んでいた。

「とりあえず、何とか説得して!!」

 グミの体がぶちぶちとちぎれて、地面にスライムが残されている。そして、必死に本体を追いかけて同化しては地面に張り付いてはちぎられる。これを繰り返していた。

「まったく、いきなり相手にけんか吹っ掛けるって、王族としてどうなのよ!! あたしたちは話をしに来たんでしょ?!」

 こうグミが叫ぶと、カレンがようやく足を止める。

「分かればいいのよ、分かれば」

 と、グミが安心したのも束の間、

「じゃあ、代わりにあなたを殴ってもいい?」

「なんでそうなるのよ、この脳筋!」

 カレンが外套を剥いで殴ろうとしていた。見ていたケイルたちが呆れる中、この騒動はしばらく続いたのだった。

「はてさて、この騒ぎは何ですかな?」

 しばらくすると、落ち着いた感じの人型をした老ドラゴンの男性がやって来た。

「これはゴラン様。グミが言っておりました人間の姫様をお連れしたのですが……」

 ここまで言ってケイルは言葉に詰まった。なにせ外套に化けたグミを掴んで、今にも殴りかかろうとしている姿を見たからだ。なんとかひらりひらりと躱してはいるが、いつ拳がグミを捉えてもおかしくない状況だった。

「これこれ、やめないか」

 バシッとカレンの拳を受け止めるゴラン。それを見たカレンは驚いた。が、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

「私の拳を受け取るなんて、素晴らしいわ!」

 なぜかとても喜んでいる。なにこの戦闘狂お姫様。

「やれやれ、これはとんだ野蛮人ですな。血の気が多いとは聞いていましたが、ここまでとは」

 拳を受け止めたままゴランが呆れたように呟いている。

「さすがにこれでは魔王様に会わせるわけには参りませんな。もう少し、気品らしきものを身に付けて頂きませんと」

 これを聞いたカレンがカチンときた。

「へぇ、それじゃ、私と一戦お願いできないかしら」

「ほっほっ、よろしいですよ。その生意気な鼻っ面、折って差し上げましょう」

「ご、ゴラン様!」

 街の入口の隅で、カレン対ゴランの戦いが始まった。

「一応広さがありますが、街は吹き飛ばさないように気を付けましょうぞ」

「ま、私も街を壊すのは心外だから、できる限りはするわ」

 後ろではケイルが衛兵に命じて住民を避難させている。伝わってくる気配だけですでにやばいのだ。ちなみにグミは、巻き込まれたくないので退避している。

「ああもう、なんでこんな事になってるのよ!」

 カレンとゴランの周りだけ、完全に空気が違う。とても近寄りがたい。

 それにしても、カレンもゴランも動かない。睨み合っているだけだ。よく見ると、カレンが汗を流している。これはグミが初めて見る姿である。

(あのカレンが気圧されてるっていうわけ? ……さすがゴラン様。魔王様の側近ナンバーワンと言われているだけあるわ)

「どうした、来ぬならこちらから行くぞ」

 グミが見守る中、ゴランが動く。一瞬でカレンの懐まで入ると、拳で連打を繰り出す。しかし、さすがは拳で殴り倒してきたカレンは、これにちゃんと対応している。躱したり腕で弾いたり、攻撃をちゃんといなしていた。

 しかし、あのカレンが一方的な防戦を強いられている光景は、グミにとって鮮烈なものだった。暗殺のために奇襲した時も拳一発で倒されたわけだから。

 そして、意外にも決着はあっさりついた。ゴランの拳がカレンの顔面を捉える。そして、寸止めされたところで、

「私の負けか」

 カレンが負けを認めた。

「ほっほっほっ。ここまで粘られるとは思わなんだが、まだまだ甘いな」

 二人して満足そうに笑っていた。いや、戦闘狂って本当に分からない……。

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