第13話 魔族の特権

 ゼリアが無事に王族としてデビューを果たしている頃。カレンに付き合わさせれているグミは、一路魔族領を目指していた。

「なぁグミ、まだ魔族領は遠いのか?」

 カレンが苛立ち気味に尋ねてきた。

「あたしたち魔物なら、単独で7日くらいあれば着けるわよ。ただ、人間だといろいろ障害があるから、最低でも倍以上はかかるわ」

 それに対して、グミは外套の状態で答えている。

「なんでそんなにかかるわけ?」

「一つは瘴気ね。普通の人間なら瘴気に感覚を狂わされるの。人間と魔族は長く対立をしてきたから、簡単には攻め込まれないようにするための措置ね」

 グミはカレンの荒い質問に丁寧に説明する。

 人間と魔族の対立の歴史は長い。そのため、人間、特に勇者や聖女と呼ばれる存在を容易に入り込ませないために、人間の感覚を狂わせる特殊な魔法を使っているのだという。それが瘴気と呼ばれるものであり、人間の体力や五感を狂わせているのだ。

 ちなみにカレンはグミが外套に化けているため、多少なりと軽減されている。それでも完全に影響を防げてはいないので、思ったよりも時間がかかるというわけである。

「人間の場合、馬のような足が速い移動手段を使っても、瘴気が無い状態でも14日間はかかるわよ。だから、自分の足で歩いているカレンなら、もっとかかるわね。相当距離があるもの」

「なら、なんで魔物は7日で着ける?」

「それも瘴気のせいよ。同胞なら敵意さえなければいろいろ恩恵を受けられるの。あたしもお姉ちゃんも、そのおかげで素早くビボーナ王国にたどり着けたの」

 完全にカレンが苛立っている。さすがは脳筋姫、相当に短気である。

「でも、カレンなら瘴気の恩恵は受けられると思うわ。分体を作って、魔王様には報告を入れておいたから」

「そういう事はさっさと話しなさい!」

 グミがこっそり仕掛けておいた事を知って、カレンが激昂している。さすが(以下略

「ちょっと、やめてよ。あたしが居なきゃ野宿は吹きっさらしになるわよ」

 グミも必死に抵抗する。周りから見れば一人で怪しい動きをしているだけにしか見えないが、ツッコミを入れる者は(物理的にも)誰も居なかった。

 結局、吹きっさらしは嫌なのでカレンが我慢する事となった。そこは王女だから譲れなかったのだろう。仕方ないので、そこら辺の野良の魔物を素手で殴り倒していた。完全な八つ当たりである。それを見せられたグミは恐怖で震え上がっていた。

(この姫様は一体何なのよーっ!!)

 よく見れば、毒を持ってる魔物すらワンパンで粉砕。というか、毒食らってるはずなのに平気にピンピンとしている。しかも毒液舐めてるし。グミは慌てて、

「カレン、毒舐めてる、毒食らってる! すぐ治すからストップ、ストップっ!」

「んあ? これ毒なんだ。どうりで舌が痺れると思ったわ」

 なんで平気なのよと、グミは内心突っ込んだ。とにかく、すぐに解毒魔法アンチドートを使う。だが、カレンの見た目はまったく変わらなかった。

「うん、舌の痺れが消えた」

 ケロっとしているカレンに、グミは心底呆れ返った。カレンは手を閉じたり開いたりしているが、本当に人間なのか疑いたくなる。

「正直肝が冷えたわよ、無いけど」

「私は一応王族だから、小さい頃から毒に慣らされてきたのよ。そのせいで並大抵の毒は効かなくなったわ」

 グミは黙り込んだ。いや、分かる話だけど分からないので、反応しづらいのだ。

「それより、ここ数日、この辺ぐるぐるしてるけど、何か理由あるの?」

 手の感覚を確かめていたカレンに、急に質問されるグミ。

「あっ、ばれてた」

「何? 粉々にされたい?」

 つい口にしてしまったグミに、ただならぬ殺気を放つカレン。グミは震え上がって言い訳をする。

「ち、違うわよ。魔王様に出した手紙に、この辺りを待ち合わせ場所にするって記しておいたから、それで」

「あっそ」

 納得したのか、カレンの殺気はすっと引っ込んだ。

 その時だった。急な魔物の気配がして、カレンがすっと身構える。だが、グミがそれを制止する。

「待って。やっと来てくれたみたいだわ」

 グミがそう言うと、二人の前に武装したリザードマンが3体ほど現れた。

「ケイル、あなたが来てくれたのね」

「その声はグミか」

 グミが声を掛けると、ケイルと呼ばれた武装が一番ごついリザードマンが反応する。知り合いのようだ。

「細かい話は魔王様と謁見してから話すわ。この子が手紙に書いておいた人間の王女様よ」

「ほぉ、この女がね」

 グミが嬉々として話すと、見定めるようにカレンを見るケイル。

「気を付けてよ。あたしやお姉ちゃんを拳一発で倒せる子なんだから」

「……そいつは怖いな。放つ殺気が尋常じゃないし、グミが嘘を吐くわけがないから信じる。とにかく、この姫様も連れて魔王様に会わせればいいんだな」

「そういう事よ。待たせると多分殴り掛かるから、早い方がいいわ」

「おお、怖い怖い」

 グミの言い分に、ケイルは正直怖くなった。アサシンスライムの防御力を知っているからこそである。付き添いのリザードマン二人は殺気で震えているようだ。

「そこな王女、そのままグミをまとっておいてくれ。でないと置いてきぼりなるからな」

「……分かったわ」

 そう言うと、ケイルは目の前に瘴気を集めて魔法を発動する。すると、その瘴気は円形のゲートへと変化した。

「こいつが、俺たち魔族の特権ともいうべきゲートだ。ここを通って一気に魔王城まで行くからな。ちゃんとついて来いよ」

 ケイルがこう言うと、カレンは黙って頷いた。

 こうしてカレンは、グミと一緒に一気に魔王の居る場所まで移動する事になった。

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