第12話 お披露目の試練

 堂々としたたたずまいで高台に現れる王族。貴族たちは静かにその様子を見守っている。ゼリアもカレンとして、とにかくボロを出さないようにして静かに立っている。

(早く……、早く終わって!)

 始まったばかりなのにこんな事を思うゼリア。

 しかしながら、始まったばかりのこの段階で、ゼリアはしっかりやらかしてしまっている。なぜなら、カレンがお淑やかに構えている事などありえなかったからだ。

 実はカレンは、参加した時は必ず目を見開いてドヤ顔を決めていたのだ。軽く俯いて儚げにする事は絶対なかった。これだけですでにカレンとは別人の印象なのである。どんだけなのよ、カレンって……。

(今日の姫様はやけにおとなしいな……)

 参加者たちの感想はおおむねこの通りである。

 国王の挨拶が行われ、その際にカレンが紹介される。表向きは病気療養で通していたので、おとなしいのはそのせいという事にして紹介されていた。貴族たちの反応はまちまちである。

 ゼリアはこのまま退場して終わりだと思っていたのだが、国王から特大の爆弾を落とされた。

 なんと、お披露目という事で兄であるアレスと一曲踊る事になってしまったのだ。驚いたゼリアはアレスをゆっくり見ると、不敵に笑っていたので嵌められたと直感したゼリアは露骨に嫌な顔をしてみせる。だが、アレスは無視してゼリアをエスコートして高台から階段を降りていく。ゼリアは覚悟を決めて諦めた。

 高台から降りて、アレスが楽団に顔を向ける。すると指揮者が構え、楽団による演奏が始まった。

 まさかダンスを披露させられる事になるとは思っていなかったゼリアだったが、アレスのリードもあって無事に踊り切っていた。元がスライムとは言えど、慣れないドレスに高いヒールの不安定な恰好には不安があった。だが、踊り切ってみれば杞憂であった。踊り切ったゼリアは、集まった貴族たちに向かってカーテシーを決める。これも普段の教育の成果が出ており、この上ない美しさであった。

 ゼリアがカーテシーを決めた後、しばらくの沈黙があったものの、誰からともなく拍手が起こって瞬く間に会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

「では、本日はごゆるりとしていってくれたまえ」

 国王がこう発言すると、国王と王妃は会場を後にする。ゼリアもアレスのエスコートでその後に続いた。

 国王たちは王族専用の食堂へと入る。そして、押し黙ったまま席へと着いた。それを合図に次々と食事が運ばれてくる。そして、すべてが揃ったところで、ようやく国王が口を開いた。

「見事であったぞ、ゼリア」

 労いの言葉だった。正直、緊張で凝り固まっていたゼリアは、この言葉にしばらく反応できずにいた。

「まったく、妹の姿をしているが、妹とは似ても似つかないな」

 アレスは何気に酷い事を言っているが、顔は笑っている。お披露目中の態度とか踊りの事を評価しているようである。

「ええ、正直ひやひやしましたけど、無事に終わってよかったですよ」

 王妃からは優しい笑みを向けられたゼリア。ここでようやく緊張から解放され始めたようだ。

「お褒め頂き、光栄でございます」

 こう発言したゼリアは、胸に手を当てて大きくため息を吐く。

「貴族どもはいろいろ思う事はあるだろうが、多くはカレンが立派な王女に成長したと思う事だろう。表向きには病で床に臥せっておったとおいたのだからな」

 国王がああ発言した理由について、ゼリアはなるほどと思った。長らく病気で動けなかったとなれば、強気な性格もおとなしくなる可能性はないとは言えないからだ。カレンは性格があれなだけで、踊りの技量はそもそも持ち合わせていた。だからこそ、貴族を騙し通せると踏んだというわけである。

 まあなんにせよ、無事にゼリアはビボーナ王国で社交界デビューを果たせたのだ。ゼリアはこの事に胸をほっと撫で下ろし、国王たちとの食事を楽しんだのだった。

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