第11話 社交界デビュー

 そこからさらに5日ほどが経過した。

 ゼリアは王女としての教育をしっかりと受け、一国の王女としてはまだ厳しいが、そこそこの令嬢というレベルにまで達していた。

 カレンは現在15歳である。

 実はカレンは王女として社交界の場に出た事がほぼ皆無だ。というのも理由の一つはあの性格だ。乱暴でじっとしていられないがために、お淑やかさを求められる社交界では耐え切れないだろうと判断されたのだ。なので、何かと理由を付けて出席させていなかったが、勝手に暴れられては困るので、騎士に混ぜる事でやり過ごしてきたのである。

 このエピソードを聞いたゼリアは妙に納得はしたし、国王たちにすごく同情した。本当に破天荒なお姫様である。

 で、ついにこの日、ゼリアはカレンとして社交界デビューをする事になった。ダンスもひと通りできるようにはなっているので、ようやくゴーサインが出たのである。

 当のゼリアは緊張が隠せないようで、ルチアに着つけてもらっている間も、小刻みに震えていた。

「ねぇ、ルチア。私、大丈夫かな?」

「大丈夫だと思われますよ、カレン様。講師の方々からも大丈夫と言われたのですから、自信をお持ち下さい」

 社交界デビューの前という事なので、ルチアもしっかりカレン呼びである。ゼリアもしっかりカレンとして覚悟をしている。

 この時期、王都には国中の貴族が集まっており、今日のパーティーには実に多くの貴族が参加する。その中において、ゼリアに失敗は許されない状況にあった。理由は王族であり15歳という年齢にあった。普通ならば数をそれなりに踏んでいる年齢である。

 だというのに、ゼリアとしてはもちろんだが、カレンとしてもほぼ初出という始末。ゼリアの緊張は最高潮に達していた。

 このゼリアの緊張をより高めているのが、カレンの立場だ。なにせ第一王女。王族と一緒に最後に登場するのだから、その注目度はけた違い段違い。アサシンスライムは目立たず行動するものだから、注目を浴びる事に慣れていないのだ。

 最初こそ馬鹿にしたような態度を取っていたルチアが認めてくれているのである。

 緊張する中、突然扉がノックされる。体を強張らせるゼリアだったが、カレンの兄であるアレスが迎えに来たと聞いて、少し安心したような表情を見せる。

「ルチア、私、行ってくるわね」

「いってらっしゃいませ、カレン様」

 扉の方をしっかりと見据え、覚悟を決めてゼリアは歩き出す。ルチアは両手を前で合わせ、頭を下げた状態でゼリアを送り出した。

 本日の社交界の会場は、お城のダンスホールだ。当然ながらかなり広いし、天井もすごく高い。通常の3階分の高さの吹き抜けである。それなのに、会場の中には余計な柱は一本もない。これは土魔法に火魔法を組み合わせたもので、天井はしっかり固められているのである。それこそドラゴン級の大きさでも落ちてこない限りは天井はびくともしないらしい。どれだけ頑丈なのだろう。でも、それくらいしないと王族や国中の貴族や重要人物が集まる場所は守れないのである。

 会場には所狭しと人が集まり、歓談が続いている。領内の近況だったり、商談だったり、本当にどうでもいいような事だったり、参加者はそれぞれに楽しんでいるようだ。

 突然、その賑やかな歓談の声をかき消すような金属音が響き渡る。王族の近衛騎士団長が入場してきたのだ。これを合図に会場の全員が歓談をやめ、一気に静まり返る。ひときわ豪奢な高台のある場所の中央付近まで歩いてきた騎士団長は、そこでぴたりと足を止める。そして、会場の方へと体を向ける。

「みなのもの、本日はわざわざ足を運ばれた事、ご苦労と思う。これより国王陛下並びに王妃殿下、王太子殿下、王女殿下が入場される。とくとその目に焼き付けるがよいぞ」

 騎士団長の言葉に、ざわめきが起きる。その理由はただ一つ。最後に紹介された王女殿下という単語が原因だ。これまで片手で足りるほど、しかも短時間しか姿を見せた事のない王女が久しぶりに臣民の前に姿を見せるのだ。騒がない方が無理というものである。

 会場の注目が集まる中、玉座の置かれた高台に国王たち王族がゆっくりと姿を現した。

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