第5話 グミとの念話
「しかし、魔物というには、まるで人間のようではないか」
あの流れの後、一緒に食事を取る事になったゼリアに、国王が言葉を掛ける。
「はい。任務を遂行するにあたって人間に化ける事も多かったですから、自然と身に付いたんだと思います。喋る事については必死に練習しましたけど」
さすがに散々泣いた後なので、ゼリアも落ち着きを取り戻していた。
「私の種族であるアサシンスライムは、擬態を得意とするミミックスライムの上位になります。ミミックスライムは自我を持ちませんが、アサシンスライムは私のように自我を持つ特徴があるんです」
完全に心がへし折れたゼリアは、王国に馴染むためか自分の事をペラペラと話している。カレンとして過ごす事になったのだから、お互いの理解が必要だと考えたせいもあるが、下手に隠し事をすれば自分の身が危ないと思っているのがほぼ原因である。
とはいえ、自分の本来の主である魔王の安全が確保できて、なおかつ反乱分子が減らせるのであれば、カレンはこのまま放っておいた方がよさそうだとも考えた。なにせグミも居るので、二人が手を組めば相手が魔族でもそう問題は無いと考えたのだ。
というわけで、国王と王妃たちとの食事を終わらせた後、ゼリアは自室に戻ってグミに連絡を入れる。
『グミ、今は大丈夫?』
しばらく返答がない。仕方なしに念話を切ろうとした時だった。
『なあに、お姉ちゃん』
グミから返答があった。
『カレン様は無事? それより未だに命狙ってないわよね、グミ』
『無事よ。命狙おうとしたけど完全に失敗、諦めたわよ』
やっぱり仕事魔物であるグミは、諦めていなかったようである。寝てる間とか何回か試みたらしいが、全部返り討ちに遭ったそうだ。だが、この状況はゼリアにとってはラッキーだった。
『グミ、暗殺は諦めて、カレン様の護衛に回って』
『どういう風の吹き回しよ、お姉ちゃん』
ゼリアの言い分に、訳が分からないといった感じのグミ。なので、ゼリアはグミに事情を説明した。すると、
『とりあえず事情は分かったわ。無事に王女を守り抜いて城に帰せばいいわけね。あたしは仕事はきっちりこなさないと気が済まないから、暗殺を遂行できないのは癪だけど、そういう事なら仕方ないわ』
グミはどうにかゼリアの提案を飲んでくれた。本当に仕事魔物だから、急な任務の変更は受け入れがたいのだ。でも、大好きな姉からの頼みである。断れるわけもなかった。
『ま、あたしが外套に化けてる間は、物理攻撃は通らないから大丈夫でしょ』
悩んだとは思えないくらい、けろっとした口調で答えてくるグミ。この返答にゼリアはほっと胸を撫で下ろした。
『私はこっちでカレン様のふりをしなきゃいけないのだけど、家族にばれちゃったのよ。そしたら全員からカレン様を頼むって頼まれちゃったから、グミ、本当にお願いね』
『任せておいて』
ここで念話を終えた。グミと会話を終えて、ゼリアはベッドに身を放り出した。
今のゼリアはカレンとして過ごしているので、今の姿を見られたらはたしてどう思われる事か分からない。あの脳筋姫なので、別に問題ないかも知れないが、ゼリアの頭の姫様のイメージからするとこういう行動は取らないはずである。
それにしても、グミは無事で元気そうである。それにグミの言い分から察するに、カレン王女も大暴れしているような感じだった。
(あの姫様じゃ、魔物とか素手で殴り倒してるんでしょうね。グミの名前を借りれば冒険者登録もわけないでしょうし、生き生きしてるんじゃないかしら)
ベッドの上で寝返りを打ちながら、ゼリアは色々と考え事していた。これからは本腰を入れてカレンのフリをしなければならないのだから。王女という立場上、様々な人と会う事は避けられない。そこで魔物というボロを出すわけにはいかないのだ。正直いって悩みどころである。
とりあえず、グミとは無事に念話ができる事、カレンも元気そうな事が分かったゼリアは少し安心したようだった。
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