第4話 国王たちと会う

 カレンの兄であるアレスに正体がばれたゼリアは、翌日には国王と王妃、つまりカレンの両親に呼び出されていた。これまでは食事ですら顔を合わせていなかったので、この数日間は、たまたま会ったアレスにしか正体はばれなかったのだ。だが、呼び出されたという事は、ゼリアの事は国王たちに伝わったものと思われる。

(ひぃぃ、あのカレン様の親だから、きっと私は殺されるんだわ……)

 ゼリアは言い知れぬ恐怖に襲われていた。なにせ、カレンはどう見ても普通の体型である。それなのに物理攻撃無効のスライムに素手でダメージを与えてきた。ならばその親に警戒するなと言われても無理な話である。

 ゼリアが顔を合わせた国王と王妃は、顔立ちや髪色はカレンやアレスとよく似ていた。さすがは親子である。そして、その雰囲気はカレンよりはアレスに似た落ち着いたものである。これにはゼリアは少し安心したようである。

「よく来たな。アレスから聞いたぞ」

 部屋に入ったところで、国王から声を掛けられた。どう挨拶をするか迷っていたゼリアだったが、掛けられた言葉を聞いて、カレンではなくゼリアとして挨拶をした方がよいと判断した。

「お初にお目にかかります、陛下、王妃殿下。私、アサシンスライムのゼリアと申します。故あってカレン様のお姿を拝借しております事をお許し下さい」

 カーテシーを取って挨拶をするゼリア。その言葉と姿に、国王たちは驚いていた。

「同じ姿でも、振る舞いが変わるとこうも印象が変わるのか」

 こう言われてゼリアは確信した。カレンは普段から粗暴なのだと。アレスもお転婆と言っていたが、あれはすごく控えた言い方だったのだと悟ったのだ。

「しかし、娘の命を狙うとは、大した命知らずだな」

「はぁ、まぁ……。私自身は妹も居たので楽だとは思ったのですが、魔王様が恐れている理由をこの身で思い知りました」

 国王が視線を逸らさずに語り掛けてくるので、ゼリアもしっかり顔を向けたまま受け答えをする。

「ほお、魔王直々の命とな?」

「はい。魔王様はどちらかと言えば争いを好まぬ穏健派でして、カレン様の存在は和平を結ぶ上で障害になると仰っておられていました」

 ゼリアの返答を聞いて、国王が盛大にため息を吐いていた。

「確かに分からんでもない。カレンは普段から魔族は悪い奴、滅ぼすべきだと言ってはおったし、それ以前に考えるよりも先に手や足が出るような子だったからな……」

 どうやらカレンは、筋金入りの脳筋姫のようである。話を聞いていて、ゼリアは体が震えた。

「そういえば、妹と言っておったが、その妹はどうしたんだ?」

「妹は、カレン様に連れていかれました。アサシンスライムは擬態ができますから、今はカレン様の纏われている衣装に化けています。他にも簡単な収納能力もありますから、いいように使われているのではないかと心配なんです」

 妹のグミの話となると、ゼリアは説明しながら涙を浮かべ始めていた。魔物だというのにそういう感情を持ち合わせている事に驚かされる。そういう意味では、魔王が穏健派という言葉が真実味を帯びてくるのだ。そこで、国王たちはゼリアにこう命じる事にした。

「ゼリアと申したな。ひとまずお前には、カレンが戻って来るまで影武者を務めてもらうぞ。逃げるというのなら、すぐにでも魔族を滅ぼすようにけしかけても構わんのだぞ?」

「ひっ!」

 国王の睨みに、ゼリアはつい悲鳴を上げてしまう。それくらいにカレンによってこの国への恐怖を植え付けられたのだ。王女の命を狙っておいてこうして生かしてもらっているのだから、ゼリアにはまったく断るという選択肢は浮かんでこなかった。

「つ、謹んでお受け致します。ですから、なにとぞご容赦下さい……」

 気が付けば土下座をしているゼリア。アサシンスライムとしての矜持など、もうどこ吹く風なのである。カレンにすっかり心を折られてしまったゼリアなのである。その様子に、さすがに国王たちも哀れに思うくらいだった。

「……まさかそこまで怖がられるとはな。カレンによほどこっ酷くやられたんだな」

「そうですわね、あなた」

 もう歯向かう心はないと見た国王たちは、ゼリアに歩み寄る。

「心配するな。お前がここでおとなしくカレンのフリさえしてくれれば、お前の言う魔王とは敵対はせん」

「そうよ。私たちはどちらかと言えば、あなたみたいなお淑やかな娘を望んでいたの。あの子が帰ってくるまでの間だけでも、夢見させえてくれないかしら」

 土下座の状態のままのゼリアに向けて、国王と王妃がしゃがんで声を掛けている。思いもよらぬ行動に、ゼリアの瞳からは涙がこぼれた。

 こうして、ゼリアはビボーナ王国の王女カレンとして過ごす事になったのであった。

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