ペスカトーレ⑦ 最終
「ブリュンヒルデ……さんはアメリカ人だったのね。本名はローズ・マングローブ。二十歳。それに女性。少し幼そうな容姿だけど女優みたいに奇麗な人…………えっ!?」
理華はローズの来歴を見て驚いた。
大企業の令嬢であり、アメリカの有名大学を飛び級で、しかも首席で卒業している。
現在、何をしているか不明であるが、実家の総資産を考えると働かなくてもいい身分だ。
「そりゃ、私のように任務でゲームをやっている人じゃなかったら、社会人は時間が取れないわよね。ランキング上位に食い込んでくる一般人は働かなくていい身分か、働いていない人、それか学生になるのかしら? だとしたら、日本人っぽいシンと言う人はどんな人なの?」
理華は少し失礼な想像をしながら、シンのプロフィールを開いた。
「年齢は私よりも一つ歳下の二十五歳。日本人の男性……本名は
文野真里が退職した会社では理華の知り合いも働いている。
「凄くホワイト企業で離職率は低いはずじゃなかったかな?」
理華は気になり、スマホを手に取った。
こういうことは良くないと思いながら、文野真里が辞めた会社で働いている友人に電話をかける。
「久しぶり、あんたの方から電話なんて珍しいね」
友人のサキが電話に出た。
「ちょっと気になることがあったのよ。突然だけど、文野真里さんって知っているかしら?」
「…………」
「何かを知っているのね?」
「……どうして、彼の名前を知っているの?」
「最近知り合ったのよ。それであなたが働いている会社の人だった、って知ったの。ちょっと本人には聞きづらかったんだけれど、どうしてやめちゃったのかしら?」
「…………」
サキは少し無言になった。
「誰にも言わないから聞かせてほしいわ」
理華がそう言うと電話の向こうからため息が聞こえて来る。
「まぁ、理華には言っても良いかな。部長からのパワハラだよ」
「パワハラ?」
「私と文野君は別部署だったから、人から聞いたんだけど、原因は文野君が同期の女の子を庇ったから」
「どういうこと?」
「なんでもその部署の部長のセクハラが酷くて、飲みの席で女の子に度を超えたセクハラをしていたらしいの。で、文野君がその上司の人を注意したら、逆恨み、って感じね」
「じゃあ、それで追い詰められてやめちゃったの?」
理華はいい気分じゃなかった。
「そうだね。それが原因で辞めた。けど、文野君もただでは辞めなかった。その部長と刺し違えになったよ」
「どういうこと?」
「文野君は自身が受けていたパワハラや同じ部署の女の子たちが受けていたセクハラの証拠を録音とかしていたの。それからその部長は経理の人間と不倫して、しかも横領までしていたの。文野君はそれを全部調べて会社に提出した。その結果、部長は会社を辞めて、奥さんからも離婚を突き付けられたらしいの」
それを聞いても理華はスカッとしなかった。
(その部長さえいなければ、文野さんは今も普通に働いていたのに……)
文野真里のプロフィールはここ一年空白だ。
何もしていない。
社会が嫌になってしまったのかもしれない、と理華は考えた。
もし、そうだとしたら、銀河連邦と戦うことを断るかもしれない。
「私は直接会ったことないけど、同じ部署の人の話だと文野君は良い人みたいだよ。彼は今、元気?」
「……元気よ」
理華は嘘を言うしかなかった。
実際に会ったことは無い。
ゲーム内のチャットで少し交流をしただけだった。
「もし、結婚とかになったら、教えて」
「何を勘違いしているの。そういう話じゃないから。でも、ありがとう」
電話が終わって、少しだけ安心と不安が入り混じる。
「文野真里さん……悪い人じゃ無さそう。でも、一年間、社会へ出ていないなら、どうなっているか分からないし……」
理華は文野真里のプロフィールの家族欄を確認する。
「それに家庭が大変みたいなのよね…………んっ?」
理華がスマホを見るとまた村井一佐からの電話だった。
「繰り返しですまない。今、文野真里氏と連絡が取れた。君のマンションの場所を教えてあるから、二日後、顔合わせだ」
「えっ、この部屋に来るんですか?」
「さすがにそんなことはしない。そのマンションの地下一階に地球防衛軍の会議室がある。そこで顔合わせをしてもらう」
「分かりました」と答えて、電話を終える。
理華は明日のことを考えた。
(文野真里さん、一体、どんな人なのかしら? 私と一緒に戦ってくれるかしら?)
会社を辞めて、ゲームに没頭する。
それは社会から見たら、不適合者見本かもしれない。
しかし、文野真里は『銀河大戦』において、、間違いなく最強のプレイヤーだった。
銀河の覇者と戦う為の人類代表に相応しいのは彼しかいない。
理華はそう確信する。
「人類存亡の為、戦う…………なんて、本当に映画や漫画見たいよね。文野真里さんには絶対に話を受けて欲しいわ。私はあの人と一緒に戦いたい。――――今の私って、歴史の奔流にいるのかしらね」
そう考えると面白くなり、理華は笑った。
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