ブリュンヒルデ①
「知っているか、ローズ、私たちが見ている星はもう消滅してしまっているかもしれないんだ」
「パパ、意味が分からない。星はこんなにある」
ローズは満天の星空を指差す。
「そうだね。でも星の光が私たちの星へ到達するのには何万年もかかっていることがあるんだよ。光の速度は一秒で地球を七周半出来ると言われている。それでもあの星々の輝きが届くまで、何万年もかかっているんだ」
ローズは父の言葉をきちんとは理解できなかった。
それでも宇宙にロマンを感じる。
「じゃあ、私はたくさん勉強して、宇宙船を作る! そして、銀河を旅する!」
幼いローズは子供らしい夢を宣言した。
「夢を見つけることは大切だ。何事も全力でやりなさい」
父はローズの頭を優しく撫でた。
宇宙を旅する。
それは少女の無邪気な夢だった。
12年が過ぎて、ローズは十九歳になっていた。
アメリカの難関大学を飛び級、しかも首席で卒業した。
株やFX、その他の事業で一般人が手に出来ないほどの資産を手に入れ、現在は隠居したような生活を送っている。
ローズはこの生活に満足していた。
特に十代半ばから日本のアニメにハマり、今も夢中だ。
吹き替えではなく、日本語でアニメを見たいと思い、日本語も完全にマスターした。
今では全て日本語でアニメを見ている。
「やっと、最新話に追いついた! ワン○ース、って面白い! 海賊なのに全然海戦をしないのはどうなの、って思ったけど、凄くストーリーに引き込まれる。次の更新が楽しみ! …………眠い」
目的を達成したローズは急な睡魔に襲われた。
アニメを夢中で見ていたら、二徹してしまったのだ。
さすがにもう寝ようかとアニメサイトを閉じようとする。
「ん?」
オススメに次のアニメが上がっていた。
「懐かしい」
それはローズが初めて見た日本のアニメだった。
内容は人類が銀河へ進出した未来の話。
でも、冒険じゃなくて戦争や思想がメインで描かれている。
銀河で繰り広げられる英雄たちの戦い、伝説をローズは夢中で鑑賞した。
あの頃は宇宙を冒険することを夢見ていた。
「でも、宇宙を冒険するなんて出来ない……」
ローズはベッドへ倒れ込みながら、呟く。
彼女は頭がとても良かった。
だから、SFの世界でよく出て来るワープや超光速航法が非現実的だと分かってしまう。
人類が到達できるのは月、精々火星が限界だ。
太陽系の外に出ることなんて出来ないし、他の恒星がある惑星帯へ到達するなんて不可能。
「銀河の海を旅してみたかったな……」
ローズは呟き、就寝した。
「『銀河大戦』?」
数日後、パソコンを弄っていたら、新作ゲームの宣伝が流れて来た。
「ふ~~ん、新しいリアルタイムストラテジーゲームか」
ローズは宣伝の続きを見てみることにした。
別にあまり期待はしていない。
この手のゲームを昔もやっていたことがあったが、課金ゲームだった。
莫大な資産を持つローズにとって、課金で強さが決まるゲームにやりがいを見い出せない。
「えっ? 課金で決まる要素はない?」
ローズはその宣伝に興味を持つ。
確かに課金要素は存在する。
しかし、それは戦艦の色を変えたりするだけだった。
「へぇ~~、面白そう」
ローズはさっそくインストールして、ゲームを開始する。
「美しい……」
チュートリアルが終わって、本格的にゲームが始める。
ローズは初めに課金で手に入るスキンを確認した。
その中の一つに目を奪われる。
「プレイヤー名は『ブリュンヒルデ』にしたし、この白銀の戦艦、欲しい!」
ローズは迷わず課金した。
「うん、旗艦はこれくらい華やかな方が良い!」
ローズは手に入れた戦艦を見て、満足する。
艦隊を編成して、さっそくランクマッチに乗り出した。
そして、ボコボコにされる。
「何、さっきのやつ!? 滅茶苦茶、強かったんだけど!? それに〝ペスカトーレ〟とか美味しそうな名前しちゃって……」
相手には公認マークというものが付いていた。
調べてみると公認プレイヤーの存在に辿り着く。
「なんでこのゲーム、公認プレイヤーがうじゃうじゃいるの!?」
さっきからよく公認プレイヤーにマッチングし、ボコボコにされていた。
「でも、確かに課金して戦いが有利になることは何もない。それにかなり自由度の高いゲームで面白い!」
ローズは久しぶりに面白そうなゲームに巡り会えて歓喜する。
それからローズは『銀河大戦』に没頭することになった。
自分でゲームを行うこともしたが、それ以上に人のプレイを見た。
公認プレイヤー同士の戦いは別次元で、今のローズでは絶対に勝てない。
それでもいつかは勝つ、そう誓って、ローズは様々な戦術を試す。
次第にローズのスタイルは攻撃型になっていった。
それは今回に限ったことではない。
ローズはほとんどのゲームで好戦的なスタイルを選択している。
それは彼女の本質だった。
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