ペスカトーレ④

 理華がゲームに熱中して三日が過ぎた。


 寝る時間を極限まで減らして、ゲームをやり続ける。


 階級は大佐にまで昇進した。


 しかし、ここから将官へ簡単に昇進できず、苦戦している。


「艦隊戦のセオリーは理解しているし、悪手を打っているとは思えないのよね……でも、勝てないわ」


 理華は素直に周りの方が上手だと思い知らされる。


『銀河大戦』はリリース以降、その自由さとグラフィック、無課金で遊べる点が話題になった。


 全世界で急激にユーザーを増やしている。


「この状態でランキングトップなんて無理よね……」


 現在、理華のランキングは72位。


 全世界で爆発的にユーザーが増え続けているので、ゲーム全体で72位はトップクラスと言ってもいい成績だ。


 しかし、理華は最終的に宇宙艦隊の司令官を目指している。

 この順位で満足できるはずがない。 


「でも軍人以外の強者の出現なんてありえるのかしら?」


 現在のランキングは100位までが全て公認プレイヤー、軍人である。


「結局、軍事の専門家が強いんじゃないの?」


 理華はそう思っていたが、一カ月が経過するとランキングに変化が出始める。

 一般のユーザーの名前がランキングに入って来るようになった。


 それに多数の攻略サイトも開設され、今までには無かった新たな戦術がいくつも発見されていた。


「こうやって、戦術の論議が活発化することも狙いだったのよね。それにしても急速に実力をつけている人がいるわ」


 目立つプレイヤーが二人いた。


 プレイヤー名『シン』と『ブリュンヒルデ』である。


 二人ともすでに中将まで階級を上げている。


 理華は最近、思うように勝つことが出来ず、少将で止まってしまっていた。


「この先のことを考えると自分だけの武器を見つけないと駄目ね。でも、私には独創的な戦術を生み出すセンスは無いみたい」


 理華は自分で考えた戦術をいくつも試したが、結果はどれも酷いものだった。


 だから、理華は愚直なスタイルを目指すことを決断する。


 正確な艦隊運用。

 正確な攻撃方法。

 正確な防御方法。


 既存の全ての戦術を頭に入れて、対応策を瞬時に構える。


「正確さを武器にしてみよう。その為には乱れた生活から変えようかしら。こんな状態じゃ、効率が悪くなる一方だわ」


 理華は『銀河大戦』を始めて以来、乱れ切っていた生活習慣を変えることにした。


 ゲームを長時間することを避けて、回数を決めてやる。

 

 気持ちに余裕が無くなっていると思ったら、運動や部屋の掃除をして気持ちを切り替える。


 どうやら理華にはこのやり方が合っていたらしい。

 少将で止まっていた階級を大将まで上げることに成功した。


 半年が過ぎた頃には元帥へ昇進し、ランキングでトップ10入りをするほどの実力者になっていた。


「それにしても一般人がここまで食い込んでくるなんて……」


 最近はランキング100位以内に入っているプレイヤーの三割が一般人になっている。


 さらに言うとトップ10入りしている一般プレイヤーが二人いる。


 理華が注目していた『シン』と『ブリュンヒルデ』だった。


「シン……ブリュンヒルデ……一体、どんな人なのかしら?」


 理華は顔を見たことのない二人のプレイヤーのことを考える。


 シンとブリュンヒルデとは何度も戦かった。


 ブリュンヒルデは分かりやすいほど攻撃特化のプレイヤーだ。


 しかし、シンというプレイヤーのスタイルは未だに分からない。


 理華はシンと対戦するといつの間にか劣勢に立たされている。

 そして、負ける。


 理華には何で負けたのか、その明確な理由が分からない。


「名将に名采配はない、ってことかしらね。それにしても、ゲームに没頭できるということは現実世界ではどんな生活をしているのかしら? 失礼だけど、普通の社会人じゃないわよね。でも、それにしては……」


 理華はシンとゲーム内のチャットで話をしたことがある。


 その時のやり取りはとても丁寧だった。

 理華は物腰の柔らかそうな印象を受け取っている。


「まぁ、実際に会ったわけじゃないから、どんな人かなんて想像するしかないけど……」


 だとしても、ただのゲーム好き、というレベルじゃない。


「いずれ、シンやブリュンヒルデとは司令官の座をかけて戦うことになるわね。さてと……」


 理華は椅子から立ち上がる。


 決められた回数のランクマッチを消化したので、少し体を動かす為にタワーマンション内へ隣接しているトレーニングルームに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る