ペスカトーレ③
「さてと始めようかしら」
理華はゲームをインストールし、起動する。
初めに名前を決める画面になった。
「名前は何が良いかしら? さすがに本名は避けるべきね。だったら、釣野だから、フィッシャー? …………何だか、男っぽい気がするわ。そうだ、ペスカトーレ(イタリア語で釣り人の意)にしましょう」
各設定を済ませて、チュートリアルを終わらせる。
そして、いよいよ本格的に『銀河大戦』のゲームが始まった。
「ミサイル艦……宇宙空母……標準戦艦……巡洋艦……」
この一ヶ月で思い描いていた理想の艦隊を編成する。
通常のオンラインゲームなら戦艦を買う為に課金が必要かもしれないが、『銀河大戦』にはそれが無い。
どんな戦艦も無償で作れる。
初期から全ての戦艦が解放されている為、作れない戦艦は一隻も無い。
課金して強くなる要素は一つも存在しない。
「銀河連邦と戦える人材を集める、というのが目的なのだから、当然と言えば、当然ね。…………さてと始めようかしら」
理華は早速、ランクマッチに乗り出す。
サービス開始直後だというのにゲームの進行はスムーズだった。
これも目立たないが、銀河連邦の技術らしい。
PCの性能や通信状況のラグで勝敗に影響が出るのを避けられるようになっている。
理華は地球防衛軍がこのゲームを使って、本気で人材の発掘をするつもりだと改めて理解した。
すぐにマッチングし、戦いが始める。
「初陣ね。……それにしてもゲームなんていつぶりかしらね」
理華は少し気持ちが高揚していたが、初戦は拍子抜けだった。
相手が訳の分からない動きをしている間に戦いが終わってしまう。
結果は圧勝だった。
「こんなものなの? いいえ、普通はそうよね」
このゲームは今日、リリースされたばかりである。
一般のプレイヤーは予習などほとんどしていない。
「とにかく今はランクマッチをやって、階級を上げましょうか」
理華は連戦連勝で、すぐに自分の階級である中尉まで昇進した。
「二尉……中尉って簡単に成れるわけじゃないわよ」
理華はゲームに向かって、愚痴を言う。
そして、あっという間に少佐へ昇進した。
しかし、ここまで来ると対戦相手の様子が変わって来る。
理華は初めて負けた。
相手プレイヤーの名前に公認マークがついている。
公認マークは理華のようなゲームに参加している軍人に与えられている。
一般的には公認プレイヤーということになっているらしい。
同じ時間に艦隊戦を行っている佐官階級の会戦をチェックすると全てのプレイヤーに公認マークがついていた。
「そりゃ、この短時間でここまでランク上げが出来るのは私のような軍人よね」
佐官に昇進してから、理華は公認プレイヤーとしか対戦できなくなっていた。
全員が手強く、中々勝てない。
「それにしても動きが他の公認プレイヤーと違う人が混じっているわ。……もしかして、実際に宇宙で行われた艦隊戦を経験した人なのかしら?」
銀河大戦がリリースされる前に、実際の宇宙艦隊戦を経験した軍人が二割程度参加している、と村井一佐から説明をされた。
「今のトッププレイヤーは経験者、ってわけね」
村井一佐の言っていた通り、宇宙艦隊戦というのは陸海空、どの戦いとも違う。
戦艦、母艦、ミサイル艦、巡洋艦などの組み合わせも難しい。
理華はゲーム開始当初の艦隊編成からかなり変更をしていた。
そして、まだ正解には辿り着いていない。
「見るのも勉強よね…………えっ!?」
時計を確認したら、夜の12時を過ぎていた。
サービス開始が昼の12時だったので、半日ゲームをやっていたことになる。
「ゲームって怖い……」
普段はもう寝ている時間なのに全く眠くならない。
それでも理華は生活習慣を乱すのは良くないと思って、シャワーを浴びて、ベッドに入った。
でも、まったく眠れない。
こうすればいい、こういう方法を試したい、などと銀河大戦のことを考えてしまう。
「ゲーム依存症になる人の気持ちが分かったわ…………」
理華は呟き、ベッドから起き上がり、部屋の電気を付けた。
そして、PCをまた起動させる。
結局、日が昇るまで銀河大戦のゲームに熱中した。
任務がどうとかを抜きにしても、理華はこのゲームにハマってしまう。
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