第8話 ”技能”と”属性”
「けほっ、げほっ……うん、やっぱり”技能”習得しよう」
この世界に来て一ヶ月とちょっと。相変わらず自室に引きこもっている。
前世に比べて格段に良い体調だと言えるだろうが、この世界では重病患者だ。そりゃあみんな心配するし、行動に制限がかかるのも仕方がない。
だがこんなんじゃやれることも増えないし、何ならモブとして学園に入学できないかもしれない。そしたら勇者やヒロインたちに会えないじゃないか、それは断固拒否する。
「とりあえず、自由に出歩けるぐらいには健康になって見せないとだめか。母上の”癒しの技能”を参考にして、”血統技能”も鍛えておけば”特殊技能”にできるかも」
この体を蝕む病気、『
僕の体を治す手段は、今のところ無いらしい。らしいとはいうものの、過去から現在にかけて、父上たちが探せる限り探した結果見つからなかったということなので、新しい”特殊技能”を生み出すしかないのだろう。まぁ、大陸中を血眼になって探せばあるかもしれないが、その労力も尋常ではないのでどちらにせよ誤差だ。
「ヒロインの回復も病気に対して”癒しの技能”以上の効果は無い設定だったから、再現してもしょうがない。そもそも僕の属性適正じゃ無理だけど」
属性敵性とは、その名の通り使える属性を見極めるもので、適正さえあれば誰にでもその属性を使うことができ、『叡智の輪』の属する六種族と同じ数だけ存在している。
僕たち
基本的に種族の属性適正とは別にもう一つだけランダムに属性適正を持っていて、僕の適性は”火属性”と”雷属性”の二つになる。残念ながら母上の持つ”癒しの技能”は
”草属性”の適性がないと覚えられないので、僕には使えない。ちなみにヒロインの回復の”技能”は”水属性”だ。
「僕の属性に回復系の”技能”は無いんだよなぁ」
母上の持つ”草属性”は植物を生み出し、成長を促すことができる属性だ。そして、”癒しの技能”は人の体の自己治癒力を一時的に高めることで、程度はあるものの病気や怪我を癒すことができる。
「母上の”癒しの技能”が僕に効かない以上、それ以上の効果がないと。それも”火属性”か”雷属性”で」
前世の知識を思い起こせば色々思いつきそうではある。温度を高められるのは治療に有効だし、電気を使った治療も経験したことがある。
……思いつくものを片っ端から試すかな
「まずは”火属性”で体温を上げてみようか。覚えてないけど、ウイルスを抑えられる温度があったはず」
右の手のひらを胸に当て、”火属性”の特性である温度上昇を自分の体に使ってみる。一気に上げると人体発火する可能性もあるから、少しづつ少しづつ、体中が温まりじんわり汗が滲んでくる。
体温の上昇に合わせて、心なしか調子が良くなってきた気がする。呼吸や心臓の鼓動も早くなってきた。
「なんだか、無性に動き回りたい気分だ」
温度の高まりとともに、体の輪郭が曖昧になる感覚。
どこまでが僕の体なんだろう?それとも完全に外界と溶け合って僕なんてものは消えてしまったのか?
万能感と無力感が同時に押し寄せ、何でもできそうなのに何もしたくない。
不思議な気分だ。
「おっと……ちょっとふらつくな。次からは体温計ぐらい準備しないと、正確に何度までなら体温を上げていいかわからないや」
これ以上やるとさすがに倒れそうなので一度中止する。
「ふぅ、うっぷ。ちょっと吐きそうだ。最初はいい感じだったのに、あっという間にだるくなった。高熱にうなされたときとおんなじだ」
運動の前にウォーミングアップを行うように、体温を上げること自体は悪い事じゃないはず。実際普段よりほんの少しでも高い体温を保持できれば運動能力は向上しそうだから、この方向の使い方を模索するのは正解に思える。
「”火属性”の方針はこれで。”雷属性”はちょっと操作が難しいし、今できることは限られる。それをちょっとでも試したい」
と思ったが、丁度昼食の時間になったようだ。シェリカの足音が近づいてくる。
両手で料理を運ぶので扉を開けるのも一苦労だろうし、到着するタイミングで扉を開けに行こう。
「よっと、やっぱりシェリカだ。お昼持ってきてくれてありがとう、さぁ入って」
「あ、ありがとうございます坊ちゃま。本当に足音で誰かわかるんですね」
「シェリカとエバンスと、あと母上もわかるかな。父上の音も覚えてきたかも」
「すごいですね」
”雷属性”の能力は、雷を発生させることと振動を操ること。
この部屋に近づく相手を聞き分けられるのは、”雷属性”が皆の足音の振動を感じ取れるおかげだ。
昼食を食べて一休みしたら、そっちも色々試してみよう。
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