第七章(3) 『目が覚めたら女騎士になってイケメン魔導士たちといっしょに世界を救っちゃったけど魔王から求婚を申し込まれちゃったぜ☆』


 突如として城のホールに現れた魔王。

 その場に居た者たちはすくみ上がっている。

「ふむ……おお!」

 魔王は三人の勇者を見つける。 その中には研究員の五月も居る。

「ようやく会えたな勇者サツキ! 隣に居るヴェルコとレイスも元気そうで何よりだ!」

魔王は喜びを隠せない様子だ。 三人の勇者は身構える。

「おっと! 我を再び倒そうとしても無駄だ! 何せ地獄の力で戦闘力を百倍にパワーアップしてきた。 倒すのもやっとだったお前たちが、今の我に勝てるわけがない!」

 魔王はライカを見る。

「礼を言おう娘よ! 我を復活させてくれて!」

 ライカは顔をブンブンさせながら否定する。

「いや、復活させたつもりなんて無いんですけど!?」

「お前が詠唱した呪文、アステリは古来より禁忌とされ封印された呪文。 集団で唱えると異界の者を復活させる事ができるのだ! 我はお前が唱えた呪文を受信し、この世界に再び舞い戻る事ができた! 感謝しよう!」


 魔王はそう言うとライカへと近づく。

 一見すると見た目は人間と変わらないが、頭には角が生えており、服装もカラスの羽のような衣装でいかにも悪魔っぽい出で立ちだ。


「ふむ……美しい女だ。 お前、特別に我が妃になることを許してやろう」

「はあ! なに言ってんねんアンタ!?」

「そう遠慮するでない。 我を復活させてくれた礼だ。 共にこの世界に破滅をもたらそうではないか!」

 魔王はそう言うと、一気に詰め寄ってライカを肩に持ち上げてしまう。

「ひゃあああああ!? 助けてアイちゃん!」

「ま、魔王! ライカさんを放しなさい!」

 メガネは一応ダメもとで言ってみる。

「ん? なんだ小娘、お前この娘の知り合いか? ならば一緒に来るか?」

「いや、遠慮します……!」

「アイちゃーん!?」


「魔王! お前の好きにはさせないぞ!」

 勇者たち三人も舞台の上に上がってくる。

 サツキの横に居る二人の勇者が華麗なステップを踏みながら、魔王へ向けて剣を突き立てた! ……しかし魔王はバリアのようなものを張って受け止め、その身に傷がつくことは無かった。

「くそ! 究極防御魔法、アヴレァか!」

 男の勇者の内、髪が長い方が苦い顔をしながら言う。


「ふむ、百倍の戦闘力になった我に触ろう等……一億年早いわッ!」

 魔王が手を前にかざし、髪の長い勇者へ閃光を放つ! 眩い光が辺りを覆ったかと思うと、髪の長い勇者は吹っ飛ばされて城の壁を突き破り外に放りだされてしまった!


「究極単体アタック魔法、メガファランクスだと!?」

 今度はもう一人の髪の短い勇者が驚愕の表情をしながら言った。

「ふむ、次はお前か……いいだろう。 では特別にこの技でとどめをさしてやろうではないか!」

 魔王はそう叫ぶと、再び手を前に出す。 

……すると勇者の周りに粉のようなものを大量に発生させた!


「まさか!? この魔法は……古……ノスタルジスタより失われた究極魔法! 粉のように見えるこれは聖霊ガルレルレーンの魂であるソウルメイティアをプリンタアウティアさせ、そのソウルメンティアを召喚転送ストライキングする時にできる刹那的に生まれたアルティメッティア的に増大したパワー=エネルギウスをもって相手をエクシードダウンさせる隠された黄昏の究極魔法!?」


「どうでもええけど変な造語で解説しとる暇があったら逃げろやぁ!?」

 魔王に抱えられたライカのツッコミも空しく、勇者は粉から発せられた光により爆発に巻き込まれる。

「ぬわぁああああ!」

 断末魔を上げ、勇者は倒れた……。


「ふむ、まあここまでやったんだ……ついでにお前も倒しておくか」

 魔王は今度は五月の方へ向き直る。

「ふむ、我を一度でも倒したお前をやるのは心苦しい。 そうだな……我の愛人となるならば、その命消さずにおいてやるがどうだ?」

「くぅううう! おいお前! そこの女!」

 五月は魔王に抱えられているライカを指さす。

「え、なに?」

「お前が来なきゃ今頃あの呪文を使って私が魔王に求婚されてたのにぃ! どうしてくれるんだ!」

「は?」

「せっかく戦闘力百倍になった魔王を新たなパーティーに加えられる所だったのに、台無しだよまったく!」

「知らねーしッ!? てか魔王に求婚てなんや!? すべて仕込んでたんかワレぇ!?」

 五月の理不尽な逆切れにブチ切れたライカは魔王の肩の上で激しく暴れる。


「ふむ、どうやら交渉の余地はないようだ。 お前も消え去れッ!」

「ぐぐッ!?」

 魔王は何か特殊な念力を使い、五月を宙へと持ち上げた。 五月は何かに体を締め上げられているかのように苦しいうめき声を発しながらもがく。


「うわわわ……ちょ、どうするキャット!? 何かいい案はないの!? このままだと伊集院さんて人やられちゃうんだけど!?」

 メガネがCATに助けを求める。

≪悪いがいい案が見つからん。 なんとかしてくれ≫

「使えないアンドロイドだなあ!?」


「そこまでだまおう!」


 その時、ホールの扉の方から声が聞こえた。

 みんなが一斉に声の主を見る。

「あ、あんたは!?」

 そこに居たのは、さっきマーシャから救ったはぐれゴブリンだった!


「しろからじゃあくなおーらをかんじたとおもったら、やっぱりまおうがふっかつしていたとはな! おいみんな! あのきんじられたじゅもん、あすてりをみんなでとなえるんだ! そうすればやつをたおすことができる!」

「ど、どういうこと!? 唱えたら地獄からまた変な奴が出てくるんじゃないの!?」

「いいからいうとおりにしろ! みんないくぞ! あすてり……あすてり……」

 城の人たちは藁にもすがる思いで『アステリ』を唱え始める。


「ふむ、バカな人間どもめ! 血迷ったか!? そんなことをしても、また第二、第三と地獄の魔物が復活してく――」

 再び天井に漆黒の影が現れる!

「また出た……」

 メガネの頭は絶望で埋め尽くされる。


「魔王……魔王……」


 影から、女の声が聞こえる。

「なんだ……?」

 魔王も何が起きるのか分からないといった様子だったが、次第にその顔は青ざめていく。

「ま、まさか……この声は……!?」

 既に顔面蒼白になる魔王。


「許さん……許さん……」


 恨めしそうな声が影から聞こえてきた。 そして――。


「この浮気野郎ぉおおお!」


 影からビュンと何かが飛んできたかと思ったソレは、目にも止まらぬ速さで魔王にぶち当たる! その拍子でライカと五月は解放された。

「ぐわぁあああ!」

 吹っ飛ぶ魔王。 そして、そこに立っていたのは……ほっぺをぷくっと膨らませて怒った表情をしている可愛らしい女の子だった。 頭には角がついており、服装も魔王に似ている。

「いててて……!」

 よろよろと立ち上がる魔王の目に、彼女の姿が目に入る。


「お、お前は……デビル子!?」

 どうやらデビル子というのが彼女の名前らしい。

メガネとライカは安易すぎだろ! と思ったが、あえて言わない事にする。


「魔王? 私という存在が居るのにも関わらず人間の娘に手を出すだなんて、なんて酷い悪魔なの!?」

「い、いや違うんだコレは! ほら、人間界を征服するための一種のデモンストレーションというか……!」

 さっきとは別人のように取り乱す魔王。 デビル子はズカズカと魔王の元へ近づいていく。

「さあ魔王! 帰りましょう? お話は地獄でゆ~っくり聞かせてもらうからね!?」

 デビル子は魔王の耳を掴んで元来た影へ飛んでいく。

「ひぃ!? 待てデビル子! 今帰ったらせっかく復活したのに台無しになっちまう! せめて――」

「うるさい! あんたの言い訳は聞き飽きたわ! 今度ばかりは容赦しないからね!」

「やめろ! やめろ! ひぃいいい!?」

 魔王の叫びと共に、二人は影の中へと姿を消していった……。



    ※


「まさかあんな方法で倒しちゃうなんてね……。 毒をもって毒を制すってやつね」

 一時騒然としていたが、今は大勢居た来賓客たちも帰ってホール内は静かな雰囲気となっている。

 ライカはひたすら王様に謝っていた。

「まさかあの呪文があんな事になるなんて……申し訳ありませんでしたぁ!」

「自らの力量を計らんで未知の力にすがるのは、もうこれで終わりにするのだぞ」

 どうやら今回は説教だけで見逃してくれるらしい。 器の大きい王様だ。


「ゴブリン? あなたああなる事を知ってたの?」

「まおうのうわきぐせはもんすたーかいわいではゆうめいだったからね。 しっとぶかいでびるこがつねにまおうをかんししているとなれば、あのじょうきょうをみのがすはずがないとおもったんだよ」

 メガネははぐれゴブリンに礼を言う。 もし自分たちがこのはぐれゴブリンをマーシャから助けていなかったらと思うと、今頃どうなっていた事か……。


「で、伊集院さん?」

 傍に座っている五月に、メガネは話しかけた。

「帰りましょうか? 元の世界に」

「はあ……まさかお前たちが『ドア』から来たなんてね……」

 どうにも腰が重そうな五月を見て、メガネが改めて説明する。

「さっきも説明しましたけど、状況は分かりますよね? あなたが来ないと、色々ヤバいんです。 キャットや蘭くんが待っていますよ」

「あのね……もう少しだけこの世界に居てもいい? まだやり残した事沢山あって――」

「例えば?」

「魔王を倒した後に封印が解放された遺跡にまだ行ってないし、伝説の鍛冶屋にも会ってないし、なんか意味深な亡国の姫にも会ってないし、それにパーティーメンバー全員を一個で全回復できる究極の薬もまだ十六個もあるし――」

「却下」


≪伊集院さん≫

 ドローンのスピーカーから蘭の声が聞こえた。

≪帰ってきてください。 僕、早く伊集院さんに会いたいです≫

「蘭?」

 突然聞こえた蘭の声に五月は驚く。


≪僕も最初はその世界から帰りたくないと感じていました。 ここが僕の望んだ理想の世界なんだって。 でも思ったんです。 メガネさんとライカさんでその世界を救った時、みんなでその世界を体験するのも悪くないなって。 その世界で僕だけが楽しく生きていても良いんですけど、同時にみんなで共有する世界も悪くないなって思ったんです。 そっちの方が全然楽しいじゃないですか? 中にはその世界を楽しいと思わない人も居るかもしれない。 でも、もしその人が同じように楽しいと感じてくれたら、きっと僕も嬉しいと思えるんです。 それってなんだか素敵じゃないですか? もちろん百人中何人が楽しいと思うかは分かりません。

もしかしたら一人だけかもしれませんし、0かもしれない。 でもそれが僕たちの世界なんです。 そしてそれは僕たちにしか実現できません。 だから伊集院さん、どうかまた僕と未知なる世界の探究をしましょう!≫


 蘭の話を噛みしめるように五月は聞いていた……。

「わかった……この世界はとても素晴らしい。 でも、もっと色々な人にも見てもらいたい。 少しでも早くその世界を共感してくれる『仲間』を求めて、私は元の世界に戻って研究を続けたいと思う!」

 五月は立ち上がると、後ろに居るもう二人の勇者を見る。

「勇者サツキ……元の世界へ帰ってしまうのか?」

 さっき究極魔法とやらでド派手にやられていた二人の勇者だったが、今は何故かぴんぴんしていた。 あの爆発はイメージ映像的なものか? とメガネは思った。

「あなたたちと一緒に過ごしたこの一ヶ月はとても素晴らしいものだった。 でも、私は私の世界でやらなくてはいけない事がある。 でも……必ず帰ってくるから!」

 三人は抱き合った。


 あぁ……異世界から帰る時ってなんだか切ないな、とメガネは思った。 これは確かに帰れなくなるわ。

 メガネはマーシャの事を思い出す。

 最初は厄介な子だなぐらいにしか思わなかったが、一期一会のこの出会いを大切に感じてしまう自分が居た。


「マーシャ」

 メガネはさっきから椅子に座って項垂れているマーシャへ近づく。 酒臭い……。

「私たち行くけど、あんたしっかり生きなさいよ? もう弱いものいじめしちゃいけないからね?」

 それはまるでお母さんのような言い方だった。

「お酒もほどほどにね」

「うぃ~」

 二日酔いのせいか、マーシャは頭を押さえながら頷く。

「大丈夫です。 マーシャもお二人に感謝してますよ」

 さっきの楽団員の女の子がマーシャを介抱しながら言った。

「お願いね」



 メガネ、ライカ、五月はその後しばらくしてから『ドア』へ向かった。 現実の世界へ帰るために。


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オリーブの首飾りとどこでも異世界 異伝C @gene-type-c

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