七の出目
カフェ千世子
一六、二五、三四
絶対おかしい……。
周助はぐぬぬとうなっていた。賭場で丁半博打に興じているのだが、先ほどから外し続けているのだ。
すでに六度外している。しかも、ずっと半が続いている。それもサイコロの目の合計が七の目ばかり出ている。
振り子の女を見ると、目を逸らした。口元が不自然に歪んでいる。
何? 俺の不運を笑ってんの? それとも、今日は俺をカモにする日⁉
知ってるからな! 実は振り方で自分の出したい目が出せるんだろ⁉
連続で七の目出すって何の意図があんの? 胴元の取り分なんか一律だろうが! 俺が勝ちまくってるから負けさすならわかるけど、負けっぱなしだぞ! こんなに負けてたら、次から来ないからな! 気持ちよく勝たせろよ! それとも何? 実は自分の出したい目を出すとかはやっぱりできないの? 都市伝説? やっぱり俺が運が悪いだけ?
高速で思考を巡らせる。
「半方ないか?」
丁の方が賭ける人間が多いらしい。当たり前だ。こんなに半が続いていれば、いい加減丁が来ると大体の人間が思う。
しかし、丁半が同数にならなければ、始まらない。周助は頑として丁から動かなかった。
壺が開かれる。
「はあああああ? あああああ!」
周助は頭を抱えて身を沈めた。またしても半。それも七の目である。
周助の隣の男が三度外した苛立ちから立ち上がりかけたが、周助を見てふっと哀れみの表情を浮かべ、怒りを収めていた。
その様に、周助は余計に業を煮やした。
情けなさを抱えながら、飲んで紛らわそうと街を歩く。
雑踏の中七人連続でぶつかられて、店を探していると七軒連続で満席で座れなかった。
「もう、何~~~⁉」
周助の不機嫌はここに極まっていた。
「さっきから七だな。七ばっか……」
『七』の数字に何かあるのか? なんだっけ。何か忘れているような……
「この子の七つのお祝いにーお札を届けに参りますー」
どこかの家から子供の歌う声が聞こえてくる。
七つのお祝い……
周助ははっと思いだした。
俺、姪っ子の七歳の七五三にお祝いしてへんわ、と。
「あんた、七五三がいつか知らんの?」
「やかましいな。別にええやろ」
「正月またいだから八歳になってもうたで」
姉の元に間に合わせに買った祝いの品を渡す。千歳飴代わりの飴と菓子、それに小間物屋で買ってきた櫛と鏡が一緒になった小袋だ。
小間物屋で品物を選ぶ際、まったくわからなかったので店主に尋ねると進められた品物だ。まだ子供なのに櫛や鏡など必要なのかと思ったが、別に腐るものでもない、と言われてそれもそうかと納得して買ってきた。
姪は姉にしがみついて身を隠しながらこちらを窺っている。ふりふりと手を振ってやっても、反応が薄い。
「ほら。お祝いの品」
屈んで目線を合わせて姪に直接渡す。
花を散らした意匠の赤い袋を見て、姪はぱっと笑顔になった。中を開けて、櫛を取り出してまた目を輝かせている。櫛にも花の意匠が彫り込まれていて、かわいらしいものだった。鏡も同じく花を散らした絵柄が彫られている。
姪はにこにこと笑顔で鏡を覗いたり、櫛で髪を梳いたりしている。
「こんなちっさくても、いっちょ前に女の子なんだな」
「ほら、お礼言って」
「ありがとうございます」
「うわあ! 流暢にしゃべってる! あーとーとか言ってたのに」
「それいつの話よ。三歳頃には結構しっかり喋ってたわ」
周助は姪がすっかり人間として育っていることに驚いていた。
抱っこをしてみようと思ったが、嫌がられて逃げられてしまった。
「もうちょっと顔見に来なさいよ。知らん人扱いになってるから」
とりあえず、祝いの品を渡した周助は気を持ち直した。懸念事項もなくしたし、すっきりとした気分で明日を迎えられると思ったのだ。
「出ました。三四の半」
「なんでだよおおおおおお!」
七の出目 カフェ千世子 @chocolantan
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