三章 魔族の頂点に相応しい存在になる為に

二十四話 レイアース魔術学院、懐広すぎる

 今から約百年以上も前のこと。当時は人間と魔族がバチバチに争う時代だった。

 人間は自分達の世界である人間界を守る為、魔族は魔界から領土を広げる為。

 血で血を洗うような戦いがあちこちで行われ、それが何年も続いていたとか。 

 しかしその争いも勇者と魔王の戦いにより終止符が打たれた。結果は勝負付かず。

 その戦いがあまりにも苛烈過ぎて、当時の勇者と魔王で話し合いが為された結果として。


「――そうして人間と魔族の諍いは無くなり、どちらにも平和な世界が出来ましたとさ」

「おー……。とても面白い話だった……」


 レイアース魔術学院。とある時期を境にして優秀な女魔術師が集まり始めた学院。

 基本的には一定以上の実力が無ければ編入は出来ない。面接+試験の二段構え。

 一つ例外があるとすれば、理事長の酔狂で『身分問わず』合格出来てしまう制度が。


が面白いとか言っていい話なのかな、これ……?」

「お祖父ちゃん、凄く頑張ったらしい……」

「それはそう……だろうね」


 お昼休みの図書館のとある一角。俺の膝の上には銀髪の小柄な少女が座っており。

 彼女に見えやすいように、歴史の絵本を俺が広げているのが現状である。


「ありがとう、カイト……。分かりやすかった……」

「お安い御用だよ、リリン。他に読んでほしい本とかある?」

「ん……じゃあ、人間のことがよく分かる絵本……」

「そうしようか」


 理事長が『そろそろ帰ってくる』と零した次の日、彼女は悠々と学院に登校してきた。

 見た目だけなら高等部にしては少し小柄な程度で、人間と大きな差異はない。


「!! リリン、角が出ちゃってるよ」

「あ……。気を抜くと、すぐ出てしまう……」


 しかしあくまで彼女は魔族。本来の姿は角も尻尾も生えていれば翼まである。

 いくら平和な世の中とはいえ、魔族がいるとなれば怯える生徒もいるかもしれないと。

 そう彼女自身が気を遣う形で、学院生活は人間に擬態して生活してもらっていた。


「リリン様!! ここにおられましたか!!」

「しー……。ララ、図書館の中は静かにしないといけない……」

「はっ、申し訳ありません……!!」


 そして流石にいずれ魔族の王となる者が単独で人間界の学院に通うのは不味いと。

 リリンの侍女であるらしい悪魔の女性が一人(?)、学院の教師として派遣されていた。


「リリン様のお相手をしていただき誠にありがとうございます、カイト様」

「カイトとお話するの、凄く楽しいんだ……」

「楽しんでもらえてるなら何より。ララさんもいつもお疲れ様です」


 臨時で採用されたララさんだが、講義内容が非常に生徒から好評と聞いている。

 魔族の観点からの魔術の活用法。それを上手く人間用に落とし込んでいるとか。

 本人曰く『リリン様が健全に学院で成長できるなら』と非常に乗り気なのも面白い。


「っと、ごめんリリン。そろそろ昼休み空けちゃうから絵本はまた今度だね」

「むぅ……。それなら、仕方ない……」

「では参りましょうか、リリン様。午後は私の講義ですよ!!」

「ララ、やる気満々……。私、ちょっと憂鬱……」


 多少なりとも不服そうなリリンは、相変わらずやる気に溢れているララさんに連れられ。

 こうして見ると彼女達が魔族だと疑う者もいないだろう。そもそも現代は魔族に対する敵対意識などほぼ無いに等しいので、いずれは正体を明かす日が来るかもしれない。


「――あの教師、私とキャラ被ってません? 忠誠心とか丁寧な喋り方とか」

「ぶっ壊れ具合ではアイリスが圧勝だと思うけど」

「カイト様に褒められるのならもう、何でも嬉しい……ッ!!」

「本当にキャラ被ってるのかなぁ?」


 もしかしたらララさんもリリンに褒められたらこうなるのかもしれない……のか?

 取り敢えずいつも通りアイリスに講義への出席を促して、昼休みは終わりを告げた。

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