十六話 天才故の悩みが彼女にはあるのです

 割と唐突に決まったアリアンナ神殿への学外学習。その人気は凄まじく。

 全校生徒が三百人程で、連れて行けるのはその十分の一の三十人。倍率なんと十倍。

 当然滅多に行けない場所への遠征となれば、生徒の殆どが希望者に名乗り上げた。


「は、話が違うのじゃあ!? 選抜なら普通に実技試験だけでいいじゃろ!?」


 という訳で一週間後に行われる学外学習の選抜試験が三日後に行われる。

 放課後に学院の図書館に集まっていた彼女達に、俺はその概要を伝えていた。

 それを聞いたアリアは、まるでこの世の終わりのような顔で嘆いている。


「アリア……。貴方……もしかして結構馬鹿なの?」

「どうしてこの学力で魔術の実力はピカイチなんですかねぇ……」

「う、うるさいのじゃあ!! 此方は魔術を感覚でやっておるから仕方ないのじゃ!!」


 今回は魔術の根源を学びに行くイベント。ともすれば魔術に対する造詣が必要。

 当然試験は実技だけでなく、の方も存在していた。


「理論なぞ分からずとも使えればいいではないか……何故此方がこんなことを……」

「学院とはかくあるべき。魔術を学び、魔術を知ることが意義だからね」


 アリアは大賢者の孫娘だけあって、魔術に対する才能は他に類を見ない。

 だが、それ故に魔術の仕組みや構造を深く理解せずとも魔術を行使出来てしまう。


「天才過ぎるってのも考え物ね。今やってる範囲なんて初歩の初歩よ?」

「これに懲りたら座学の講義にも出席するべきですね。学院の生徒なのですから」

「アイリスの出席率がやばいって担当の教師の方から苦情が来たんだけど」


 てへぺろ、じゃないんだよアイリス。とはいえ何故かアイリスの成績は抜群にいい。

 そして当然ミラも。この二人はどちらかと言えば努力型の天才だからだ。


「そういえばアイリスとミラも今回の学外学習は希望してるの?」

「カイト様が行くのなら、当然行くに決まってます」

「気に食わないけど以下同文よ」

「建前でもいいから学びの気持ちを見せようよ」


 予想するまでもなくアイリスとミラなら試験は余裕でパスするだろう。

 純粋に魔術の根源を学びたいという生徒の二つ分の席が消えた。由々しき事態だ。


「うにゃぁぁぁぁ!! やってられんのじゃ、こんなややこいこと!!」


 そして急ピッチで試験対策の勉強をしているアリアは早々に音を上げる。

 今まで感覚でやっていたものを言語化する。その難しさはきっと彼女にしか分からない。


「というか、アリアンナ神殿って言うなればアリアの故郷みたいなものでしょ? 別にここで無理しなくても、貴方ならいつでも行けるものなんじゃないの?」

「そ、それは……そうなのじゃが」

「まぁ、貴方もカイト目当てで学院に来てるクチなんだから私達と同じ理由か」

「……そう、じゃな。カイトと一緒に行くことが、此方にとって大事なのじゃ」


 ミラの鋭い質問で動揺したアリアだったが、ミラは勝手に納得してくれた。

 だが、妙に言い淀み顔に陰を落としていたアリアをアイリスは見逃さなかった。


「カイト様。もしかして、何か隠してます?」

「……。言えないな」

「何か隠してることは否定せず嘘も吐かない。そんなカイト様が大好きですよ」


 それを確認出来ただけでも僥倖、とアイリスは満足そうにアリアの隣に腰を下ろした。


「ここはアリアさんに手を貸した方が、私にとって得がありそうです」

「あ、アイリスぅ……」


 俺が隠している何かを探る為、という理由を付けてアリアの勉強を見るアイリス。


「じゃあ私も。貴方達一応友達だし勉強手伝ってあげる」

「は? 二人ともカイト様に寄り付く悪い羽虫でしかありませんが?」

「情緒」


 そしてその勉強会にミラも参戦。この二人がいればきっと大丈夫だろう。

 今回の行き先を決めたのはアリアの為だ。だが、そこから先の忖度は一切無し。


「ごめん、俺は他にやることあるから戻るね。寮の門限までには帰るんだよ」

「はい。アリアさんのことは私達にお任せください!!」


 用務員の仕事はもう終わらせている。なのでこれから行うのは個人的なもので。

 アリアの願いを叶える為に、俺は今から全力で頭を使う必要があった。

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