十七話 突撃!! 魔術の聖地アリアンナ神殿
「な、なんとか試験をパスしたのじゃ……!! 奇跡が起きたのじゃ……!!」
「アリアの地頭の良さが幸いしたわね。よくあの短期間で仕上げたものだわ……」
選抜者三十人中三十位。実技は当然満点、そして筆記がギリギリ合格ライン。
恐らくアイリスとミラに勉強を見てもらわなかったら、今頃留守番だっただろう。
「それにしても、カイト様がいなければここまで来るのに三日はかかったと考えると……」
ハートフィリア王国から遥か遠く。鬱蒼とした森、天まで届かんとする霊峰を越えて。
およそ普通の人間では立ち入ることの出来ない辺境にあるのがアリアンナ神殿だった。
「此方!! 此方も協力したのじゃ!! ……まぁ、本当にちょっとだけじゃが」
「流石に今回は人数が多かったけどね……」
そんな場所に行く為に使ったのが強制転移。一度行った場所なら座標を繋げられる。
しかし大量の魔力を消費するので人数に限度がある。アリアの魔力も少し借りた。
「噂には聞いていましたが、なんとも神々しい場所ですね……」
「俺も初めて来た時は感動したなぁ。魔術に携わる者なら尚更だ」
あまり魔術を学ぶのに積極的ではないアイリスでも感動するその荘厳さ。
他の生徒達も当然類に漏れず、誰もがアリアンナ神殿に目を奪われていた。
「では、引率の方はお願いします。俺は基本的に後ろの方に控えてますので」
「はい!! ……出来ればカイトさんにも講義を手伝ってほしいのですが」
「いえ、そんな。誰かに何かを教えるっていうのは流石に俺には門外漢ですよ。校外学習となれば、主役となるのは教師と生徒。用務員の俺はあくまでも付き添いです」
用務員の仕事は学院の生徒が安全に学ぶ場所を作ることに他ならない。
そもそも今回の引率の教師の方はレイアース魔術学院でも指折りの実力者だ。
素人の俺が出張っていい状況ではないだろう。認められているのは嬉しいけどね。
「それでは参りましょう!! カイト様と二人でないのは些か不満ですが!!」
「人数は多いけど、デートと考えれば気分も上がるってものよね!!」
「カイトと故郷に……。これは実質結納案件なのでは!? えぐいのじゃあ!!」
「はい、三人ともちゃんと前に行こうね」
そして折角後ろで控えようとしたのに引っ付いてた三人を前に強制送還。
ここには遊びに来ているわけではないのだ。彼女達も他の生徒達と同じように扱う。
(壮観だな、流石に……。この神殿内に魔術の神髄があると言っても過言じゃない)
教師の方が先導して中へ。神殿の中にはアリアンナ様が遺した石碑や書物が沢山ある。
ありとあらゆる魔術の理論、構造式等。宝の山といっても過言ではない。
「大賢者アリアンナ様が遺した魔術の方式は、現代魔術の根源ともされています。それまでの魔術とは異なる利便性や万能性を有し、まさしく魔力による奇跡とも……」
神殿内の資料は誰でも閲覧が可能だが、持ち出しや破壊にはプロテクトが。
前から聞こえてくる丁寧な説明に耳を傾けながら、俺も神殿内の資料を見て回る。
「懐かしいな。あの頃は半分も理解出来なかったっけ」
用務員を目指すと決め、魔術を学ぼうと志した頃に一度訪れた時のことを思い出す。
つまり俺の魔術の殆どはアリアンナ様の後追いに過ぎない。俺に限った話でもないが。
(……やっぱり無いか。こんなところにそんな大魔術の理論なんて……)
神殿内にあるのはどれも画期的で実践的な魔術の理論ばかりだが、それまでだ。
今の俺が求めている魔術は無い。その事実に少しげんなりしながらも顔は下げない。
「――神殿の奥には大賢者アリアンナ様が眠るとされているお墓があり……ってあら?」
生徒を見回しながら解説を続けていた先生だったが、そこで不意に首を傾げた。
数秒生徒達の顔をよく確認した後に、眼を剥いて口を手で抑える。
「う、嘘!? ちょっと目を離した一瞬の隙に……!?」
「ど、どうしました!?」
「あ、アリアさんが何処にもいなくて……!!」
「アリアが!? まぁ、彼女はここをよく知ってはいるでしょうが……」
講義中にアリアが突然の逃亡。確かにここは彼女の実家のようなものではある。
(早いよ、アリア!! 流石にちょっと急ぎ過ぎじゃないかな!!)
驚く様子を見せながらも俺は、頭の中ではそんなことを考えていた。
「すぐにアリアを探しに行きます!! 先生は講義を続けていてください!!」
ここまでは予定調和。どこかでアリアに講義を一人で抜け出すように頼んではいた。
アリアの願いを叶える為のチャンス。まさかこんなに早く訪れるとは。
「は、はい……。その、今気付いたんですがアイリスさんとミラ王女様もいなくて……」
「え? ……え?」
顔を青ざめさせながら、同時にアイリスとミラも消えていることを告げられる。
あっという間に予定調和、脆くも崩れ去る。やりやがったなぁ、あの二人……!!
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