十五話 運命の歯車は少しづつでも廻り始める

 今のレイアース魔術学院では、月に一度学院の教職員たちが集まって会議をする。

 有望な編入者が多く集ったことで世界でも有数の女魔術学院になり起きた変化の一つ。


「――という訳で何か意見がある者はいないか? 忌憚の無い意見を求めている」

 理事長が主導して会議は踊る。、本日の議題は『学院初のイベント内容』だ。


 これまでは学院全体で何かをするということが無かった。する余裕もなかったからだ。


「生徒同士の競争を高める為にも、学院内で魔術大会でも開くのは?」

「現状では生徒間の実力差が大きい部分もあると思いますが」

「確かに……。私たち教師でも止められない程の実力者が何人かいますからね」


 そこで何人かの教師の方が俺をちらと見る。幾つかの事件を思い出して苦笑いが。

 当たり前だがこの場には俺を除くと大人の女性しかいない。多少居づらいのは否めない。

 なので基本的にはこういう場で目立たないようにしている。若輩者の賢い生き方だ。


「ふむ……。カイト、お前は学院で何を行うのが必要だと思う?」

「え、俺にも聞くんですか!?」

「当たり前だろう? そうでなければこの場にわざわざ呼びはしない」


 一応学院の運営側ということでいるだけだと思っていたが、そうではなかったらしい。

 周りの教師の方も興味津々といった顔で俺の方を見ている。胃が痛くなってきた。


「そう、ですね……。現状大半の生徒が編入者であるという点も鑑みると……」


 そこまで考えて、もしかすれば今俺が抱えている難問の解決の糸口になるのではないかと思い至る。しかし、学院で行うイベントの開催に私的な理由を入れてもいいのだろうか。


「忌憚の無い意見を求めている、と私は最初に言ったぞカイト」


 俺が言い淀んでいるのを見た理事長は、何でもいいから意見を言えと言ってくる。

 確かにこの機会を逃したら次は無いかもしれない。用務員に休みは無いのだ。


「……魔術の聖地であるアリアンナ神殿への学外学習など如何でしょうか? 学院内の講義だけですと生徒間の交流も薄くなりますし、外での連帯感も生まれるかと思います」

「なるほど!! 今一度生徒達に魔術とは何かと問ういい機会でもありますね!!」

「流石はカイトさん!! 私たち教師陣もよりよっぽど生徒のことを考えてますね」

「か、買い被りです。皆さんのような教師がいてこその魔術学院ですよ」


 それからはどんどん話が進んでいく。具体的には日時や何泊するのかなど。

 全員を連れて行くのは厳しいだろうと、希望者を選抜して行く方針に決まっていく。

 話し合いが進んでいく中で、理事長が素っと席を立って俺の下にやってくる。


「アリアのことをくれぐれも頼むぞ。きっとあいつにとって大きな契機になる」


 そして耳打ち。あまりにも的確に図星を突かれて、思わず冷や汗が。


「!! どこまで見透かしてるんですか、理事長……」

「ふっ、忘れるなよ。この学院で私が知らないことはない」


 すまないアリア。学院内で話をした以上、この人からは逃れられなかった。

 とはいえ俺達を止める訳でも咎めるわけでもない。理事長には未来が見えている。

 アリアンナ神殿を行き場所に選んだのは、あの夜にアリアにされた頼みが起因。


(用務員としての仕事もしながら、彼女の力になる。……これは大変だ)


 一人の生徒に肩入れするのは、もしかしなくとも間違っているかもしれない。

 だが、生徒の頼みを聞いた以上は用務員としてそれを助ける義務も同時に存在する。


「――では、その方針で進めよう。初の試み、君達の尽力に大いに期待するぞ」


 自問自答をしている内にいつの間にか会議は終わっていたらしい。

 現代魔術の祖、アリアンナ様が後世に自分の魔術を残す為に建てたという神殿。

 そして孫娘であるアリア所縁の地。きっと彼女が求めるものもそこにあるのだろう。

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