十三話 模範生徒と問題児は紙一重
「――さて。どうしてああなったのか詳しく話を聞こうか」
東棟の大講堂から移動して、本校舎の生徒指導室まで俺達は来ていた。
なかなか二人が動こうとしないので、強制的に転移させてもらったのは割愛。
「か、カイト……? もしかして、怒ってる……?」
「め、目が怖いのじゃ……。そんな目で見んとも……」
早速事の顛末について話を聞こうとしたのだが、どうにも二人の歯切れは悪い。
今重要なのはそこではないだろう。俺が怒ってるだとかそういうのはどうでもよくて。
「もう一度言おうか? どうして喧嘩してたのか聞きたいんだけど」
「は、はいっ!! アリアの安い安い挑発に私が簡単に乗ってしまいました!!」
「こ、此方の実力を皆に見せたかっただけなのじゃあ……。此方が一番じゃから……」
そして二人は何故喧嘩にまで至ってしまったのか、その詳細を述べていく。
属性魔術の講義での軽いデモンストレーション。どうやらその座を争っていたらしい。
「くくっ……。ミラさんの煽り耐性の無さといえば、それはもう傑作でしたよ」
「うるさいわよ、アイリス!! そもそも発端は煽ってきたアリアじゃない!!」
「ああいうのは一番魔術に長けている者がやるべきじゃろ!? なら此方じゃと思う」
「こら、ここでも言い争いしない。取り敢えず状況は分かったよ」
皆の模範になると宣言していたミラが、そういうのを率先する気持ちはよく分かる。
そして伝説の大賢者の孫娘としてのプライドがあるアリアの言い分も同様だが。
「アリア。ここは魔術を学ぶ場所であって、自分の実力をひけらかす場所じゃないんだよ」
「うっ……。それは、そうなんじゃけど……」
「アリアの凄さは十分に俺達が知ってるからさ。ここではちゃんと生徒でいてほしいな」
「……分かったのじゃ。すまぬ、それがお前様と交わした約束でもあったな……」
俺がアリアをやんわりと諭すと、彼女はシュンとなりながらもゆっくりと頷く。
この学院に在籍する以上は生徒として生きる。それが初対面の彼女と交わした約束。
「その、ミラ……。変に煽ってしまって、ごめん……なのじゃ」
「!! こっちこそ変に張り合ってごめんなさい。次からは持ち回りにしましょ?」
「うむ!! そうするのじゃ!!」
なんと感動的な一幕なのだろうか。お互いに反省し、それを次に活かす。
こういうのは学び舎だからこそ。彼女達の成長に立ち会えて、用務員感動中です。
「それじゃ、一応罰として今日は用務員の仕事をみっちり手伝ってもらおうかな」
「きちゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! カイト様との共同作業フェーズ!! 私の読み、冴えてます!!」
「アイリスは違……。まぁ、講義サボってるからそれの罰ってことでいいか……」
「ぐへへ……カイト様のご厚意に甘えるの気持ちいい……」
流石に一人除け者にするのは道理に反するので、取って付けた理由でアイリスも参加。
とはいえ次から講義をサボったら理事長室に向かわせると釘は差しておいた。
早速三人を引き連れて、元々する予定だった校内の見回り兼美化活動に向かっていく。
「……のぉ、ミラ。主、本気の魔術を此方にぶつけてきた筈じゃよな?」
「そうね。頭に血が上ってたし、全力だったわ。アリアもよね?」
「うむ、考え得る限り最強の魔術じゃった。にも拘らず……じゃ」
先頭を歩いている俺とアイリスの後ろで何やら小声で喋っていたアリアが俺の肩を叩く。
「大賢者の孫娘である此方ですら知らない、魔術を打ち消す魔術……あれは何じゃ?」
「あぁ、あれ? ただ魔力循環の流れを止めただけだよ」
「魔力循環の流れを止める……? お前様、とんでもないことやっとるぞ……!?」
「それぐらいは出来ないと用務員は務まらないからね」
そう返すと、アリアは何とも悔しそうでいてそれ以上に嬉しそうに目を輝かす。
自分の知らない魔術。思いつきもしなかった技術。それを目の当たりにした彼女は。
ただただ学びたいという欲求に駆られている、学院の模範生徒そのものだった。
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