二章 大賢者の孫娘のささやかな祈りとは

十二話 際立った才能は時に悪目立ちしかしなくて

 ミラの一件から大きな変化を遂げたレイアース魔術学院は今日も大盛況。

 とはいえ用務員としての俺の仕事は前から特に変わっていない。

 いつも通り学院内の見回りも兼ねて、校内の美化に努めていたのだが。


「――か、カイトさん!! ここにいましたか!!」

「ん? どうしたんですか?」


 大層焦った様子で女性の教師が俺を見つけて息を切らしながら声をかけてくる。

 確か属性魔術担当の人だった気がする。何か事故でも起きたのだろうか。


「と、とにかく一緒に来てもらっていいですか!? もう私には手が追えなくて!!」

「!! 分かりました、すぐに向かいます!!」


 詳細も告げられない程に焦っている。これは急いで現場に向かった方が良さそうだ。

 属性魔術の講義は東棟の大講堂で行われている筈。そこまで全力疾走。


「い、一瞬で見えなく……。本当に凄い子ですね……」

「あっ、先生のこと置いて行っちゃった。まぁ、現着優先か」


 移動中に状況でも聞ければよかったのだが、現場に着いてから対応すればいいだろう。

 数秒で東棟に到着すると、確かに大講堂の方から大きな騒ぎ声が聞こえてきた。


「――皆、大丈夫か!?」


 すぐさま大講堂の扉を開いて、中の状況を確認すると同時に生徒達に呼びかけるが。


「はっはははははは!! こと魔術においては此方に並ぶものなどおらぬのじゃ!!」

「調子に乗るんじゃないわよ……!! 貴方程度が私に勝てると思ってるのかしら!?」

「よいよい、其方は凡人にしてはよくやっておる。此方と比べたら可哀想じゃがな」

「言ったわねぇ……!? 貴方の得意な魔術で、その鼻っ柱へし折ってやるわ!!」


 大講堂の中心に二人の少女。それを囲むようにして、怯えた感じの生徒が多数。

 見るからに……喧嘩中だ。あれ、おかしいな。何か事故でも起きたのかと思ってたけど。


「来ると思ってましたよ、カイト様~!! 教師が飛び出してから正座で待機してました!!」

「……アイリス。どういう状況なの、これ」

「見苦しいですよねぇ、小娘達のキャットファイトは」

「そういうレベルかなぁ!? 二人の魔力解放だけでも講堂壊れそうだけど!?」


 一体何が原因で争っているのかは知らないが、このままだと学院に被害が及んでしまう。

 とにかく喧嘩両成敗。講義の妨げになっているのならすぐに止めなければならない。


「実力の差を分からせてやるというのも、選ばれた一握りの天才の務めかのぉ」

「舐っ……めんじゃないわよ!! 馬鹿にするのも大概にしなさい!!」

「――はい、そこまで。二人ともやり過ぎだよ」


 そうして最大級の魔術を放った二人の間に入って、魔術を打ち消す領域を展開する。

 俺を囲んだ球体の領域に二人の魔術が触れると、すぐさまそれらは霧散した。


「どういう事情があったのか知らないけど、大事な講義を乱すのは感心しないな」

「カイト!? こ、これはその……」


 喧嘩の仲裁に入った俺を視認すると、ミラは非常にバツが悪そうな顔をするが。


「なんと、お前様か!? 此方の魔術を打ち消すとは流石じゃのぉ!!」

「相変わらずだね、アリアは……」


 対照的に非常に嬉しそうにしているのは件の編入生の一人、アリアだった。

 特徴的な魔女のような帽子の下で、サラサラの長い赤髪がふわりと揺れている。


「はぁっ、はぁっ……!! い、今どういう状況ですか!?」

「あ、先生。取り敢えず喧嘩は治めたんですが……」


 遅れて担当の教師の方が大講堂に入ってきて、息を切らしながら辺りを見渡すが。

 俺を挟んだままの二人が未だに睨み合っているのを見て、顔を青ざめさせる。


「……一旦二人は指導室に連れて行きますね。講義にならなそうなので」

「は、はい……」

「それでは後はよろしくお願いします。さ、カイト様存分に叱ってください!!」

「いや、アイリスはちゃんと講義受けなよ」


 ここは魔術学院。講義とは魔術について学び実践するもので、喧嘩するものではない。

 その辺りを二人には今一度理解してもらう必要がある、と俺は一つ息を吐いた。

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