七話 困った王女様を放っておくわけにはいかなくて
「――あれ、ミラ王女は?」
仕事を終えて戻ってくると、宿直室の扉は開きっぱなしで中にはアイリス一人。
俺に声をかけられたアイリスは、肩をビクッと震わせてこちらに振り返った。
「か、カイト様……」
「……なるほど。一緒に探しに行こうか」
アイリスのその表情だけで分かった。俺がいない間に絶対に何かがあったことが。
すぐにアイリスの手を引っ張って外に出る。手遅れになってしまう前に。
「すみません……っ!! 私が、変に問い詰めてしまったせいなんです……!!」
「……アイリスが言わなくても、いずれ俺が言ってたよ。ミラ王女が追い詰められてることぐらいは俺も気付いてたし、損な役割を押し付けてしまって本当にすまない」
アイリスがミラ王女に何を言ったのかは推察出来る。ミラ王女の動機についてだろう。
それを指摘されてつい飛び出してしまった。確かに早計だったかもしれないが。
「その顔、何か嫌な予感もするんでしょ? なら、尚更急がないと」
「!! ……カイト様には敵いませんね。何もかもお見通しですか」
そしてアイリスはミラ王女が何処かに行ってしまった直後に予感を得たと話す。
自分を責めている顔。だが、アイリスが何かしなくてもきっとその予感は起きていた。
「良くないことが起きそう、という予感だけでその詳細までは分からないのが現状です!!」
「分かった。生徒と教師は講義中だし、俺達だけで何とかするしかない」
そこで俺はとある魔術を起動する。それは、対象の魔力の残滓を追尾するというもの。
彼女は事前に大幅な魔力解放を行った。ならば微量なりとも魔力を纏っている筈。
「こっちだ!! 多分まだそこまで離れてない!!」
魔力の残滓は学院の裏門方向に続いている。彼女が学院を出る前になんとか見つけたい。
アイリスが問い詰めてしまったのなら、学院外に出てしまう可能性も十分にある。
(カイト様に迷惑をかけたら許さないなどと抜かしておきながら、実際にその発端になったのは私の不用意な行動……!! どの口が人様を責められるのですか……!?)
ふと走りながら隣を見やればアイリスは非常に悔しそうに歯噛みをしていた。
そんな彼女の肩をポンと叩く。ハッとなった彼女は恐る恐るこちらを見た。
「大丈夫。俺に任せて」
「……そう、でしたね。カイト様は、昔からずっとそういう人です」
「昔から?」
「さぁ、急ぎましょう!! 王女様に何かあっては学院の責任問題ですから!!」
そうして自らの頬を両手で軽く叩くと、アイリスはいつもの調子を取り戻す。
実にらしい発言だ、と思わず苦笑いが零れる。お陰で俺も気合が入った。
「――見つけた、裏門の前だ!! ミラ王女!!」
「!!」
魔力の残滓が途切れた先。学院を囲む壁に阻まれた二つしかない出口の前。
裏門を出ようとしてたミラ王女を見つけて、俺は慌てて声をかけた。
「……追ってきたのね。よくここが分かったじゃない」
もう少し遅ければ外に出ていて見つけるのが困難だった。取り敢えず一息。
見つかってしまった、と言わんばかりに彼女は残念そうな顔をする。
「まだ用務員の仕事を全部見せられていません。エスコートする約束もありますから」
「もう十分よ、予定通りこの学院は取り壊す。……もう決めたの」
その表情は諦めの感情が色濃く出ていた。最初に宣言した時とは大きな違いだ。
「……去り際の『こんなことしたくなかった』という発言は嘘だったと?」
「そ、れは……」
感情のままに言い放った言葉はアイリスにちゃんと聞こえていた。
あからさまに言い淀んだ彼女に俺は歩み寄り、すっと手を差し伸べる。
「真実を話してくれませんか? 俺は君の力になりたい」
「……ッ。どうして、そこまでしてくれるの……?」
王国の王女様だからだとか、学院を潰されるとかそんな話は全部抜きにして。
泣きそうでいて、今にも崩れ落ちそうな少女を見捨てるわけにはいかなかった。
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