六話 ガールズトークは修羅場のお母さん
「――さて、何から話しましょうか。カイト様自身のことを知りたいんですよね?」
「……まぁ、そうね。あんな凄まじい魔力解放は、初めて見たから……」
カイトが席を外した後、宿直室の簡素なテーブルの前には二人の少女。
とにかくミラ王女の頭には少し前に見たあの光景がこびりついて離れなかった。
「あれでもカイト様の凄さの一端でしかない……と言ったら?」
「それは……そうでしょうね。あれだけの魔力解放なら……それこそ何でも出来てしまう」
「そういうことです。魔術に長けている王女様なら分かって当然ですね」
アイリスはまるで自分のことのようにカイトについて嬉しそうに語る。
彼以上に彼のことを言語化出来る。そう豪語せんばかりに。
「正直語り切れませんよ? 私がこの目で見てきたカイト様の活躍は!!」
そしてアイリスは聞かれてもいないのにカイトの武勇伝を早口で語り始める。
脚色はマシマシだったが、そのどれもが事実であることはミラ王女にも分かっていた。
「貴方……いえ、アイリスは昔から彼のことを知っているの?」
ミラ王女の質問にアイリスは、よく聞いてくれましたと言わんばかりに笑みを咲かせる。
「カイト様は覚えていませんが……幼い頃に彼に命を救われているんですよ私は。再会したのはこの学院に入学してからですが、私はずっとカイト様を崇拝し続けていたのです!!」
「そ、そう……。昔から凄かったのね、彼は」
「あれこそ努力の賜物ですよ。幼い頃から人を助けたいという気持ちは変わってませんが」
用務員をやっている理由も恐らくそこに起因する、とアイリスは付け加える。
それでも自分は用務員としては修行中だと宣うのだからより尊敬できるのだと。
「では、貴方のこともお聞きしましょうか。この騒動、ただの思い付きではないでしょう?」
「……どうしてそう思うのかしら?」
「貴方が述べたのは、この学院が潰されるべき理由であって貴方が潰す理由ではなかった。そう考えると、他に何か意図があるのではないかと考えるのが自然です」
「!!」
ミラ王女のアイリスへの印象は、丁寧な口調だが騒がしい変な子だった。
何でもないことのようにそう推察する彼女に思わず眼を剥いてしまう。
「よく考えなくても変な話ですよね、王女が一介の学院に直接出向くだなんて。なのにどうして護衛の一人でも付けないんですか? 何か他の目的があるのではないですか?」
おかしな点を挙げればキリがない、とアイリスはつらつらと事実を述べていく。
貴方は本当にこの学院を潰しに来ただけなのか、とアイリスは暗に告げていた。
「別に、何もないわ……。私の単なる思い付きで、いつもの我儘でしかない」
「真実を話してくれないのなら結構です。ですが――」
そこでアイリスが纏う雰囲気が変わる。そう、彼との勝負の直前に似たあの雰囲気に。
「――カイト様に迷惑をかけるのなら許しません。そのつもりで」
それだけ言うといつもの雰囲気に戻る。表情も笑顔から通常に戻っていた。
他に何をやってもいいが、カイトの日常を奪うつもりなら絶対に許さないと。
「なん、なのよ貴方……!! 王女である私を脅すつもり……?」
「私にとってはカイト様が頂点。それ以外は等しく有象無象なので」
アイリスにとっては特になんてこともない、ごく当たり前のことを言ったのだが。
それがミラ王女の何かに触れたのか、身体がわなわなと震え始める。
「いいわよね、貴方は……!! そうやって、何でも出来てしまう人間がすぐ近くにいるんだから!! 私のこと何も知らないくせに……私だって、こんなことしたくなかった!!」
「あ、ちょっと!?」
そして怒りに身を任せたまま、ミラ王女は宿直室から飛び出してしまった。
どこに地雷があるのか分からないものだ、とアイリスは少し息を吐いた後。
「!! ……あ。これは、まずいかもしれません……」
頭の中に凶兆の予感を感じ取ってしまったことに、少しだけ冷や汗を浮かべていた。
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