五話 王女様の社会科見学ツアー
「き、気を取り直して学院の案内を再開させましょうか」
「……………」
(すっごくバツが悪い!! 女の子相手にやることじゃなかった!!)
ミラ王女は非常に機嫌が悪そうに見えた。あれからずっと無言のまま。
アイリスの挑発があったものの、あの勝負自体はミラ王女が持ち掛けたもの。
「どうしようか、アイリス……」
「あっ、ここにもカイト様の魔力の残滓が!! 回収、回収!!」
「もう置いていこうかな、うん」
彼女に自信があったのは分かっている。その上で勝負にすらならなかった事実。
やっぱり逆効果だったのではないか。首が飛ぶのを覚悟しておかなければ。
「……。学院の案内はもういいわ。これ以上見る必要が無いのは明白だもの」
「!! せめて、もう少しだけでも――」
「――代わりに貴方に興味が沸いた。ここからは貴方の仕事ぶりを見ることにするわ」
それは思ってもみなかった提案だった。学院ではなく、俺の仕事を見てみたいと。
「用務員の仕事に興味が!? それはもう是非ご覧になっていってください!!」
「え、いや、用務員っていうか、貴方自身のことを見定めたくて……」
「では早速参りましょうか!! 一口に用務員と言っても様々な仕事がありまして――」
テンション爆上げ。この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
まさか王女様の前で用務員という仕事の素晴らしさをアピールできる日が来るとは。
「用務員に興味を持ってもらえてテンション高いカイト様……推せる!! 推してる!!」
「そもそも彼、本当に用務員なの……?」
「はい。レイアース魔術学院が誇る『最強の用務員』ですよ」
「『最強の用務員』……」
おっと、テンション上がり過ぎて二人を置いていってしまっていた。
何やらミラ王女が神妙な表情をしているが、アイリスから何か聞いたのだろうか。
誰かに仕事を見られるというのは久しぶりだ。気合いを入れていかなければ。
「まずは書類や備品の整理ですね。何処に何があるかきちんと把握することが大事です」
「結構地味だけど必要なことね」
「中庭の花壇の手入れなんかも重要です。一つ一つ丁寧に水をやるのがポイントですよ」
「あら、確かに綺麗じゃない」
「後は生徒や教師の方とのコミュニケーション。円滑に仕事を行う秘訣です。こんにちはー」
「ごきげんよう」
『こんにちはー!!』
俺とミラ王女が挨拶すると生徒達も元気よく挨拶を返してくれる、良い環境だ。
うん、いい仕事だ。何よりもやりがいがある、改めて身に染みてしまった。
「いや、普通過ぎよ!? こんなのが見たいんじゃないんだけど!?」
「えぇ!? といっても基本的にはこれが通常時の業務ですが……」
「これじゃ本当にただ用務員の仕事を見てるだけよ!! 思ってたのと違う!!」
「意外とノリノリだった気がしますけど」
「うるさい!! 思ってたより真面目に仕事してるとか思ってないから!!」
一体何がお気に召さなかったのか、ミラ王女はこれでもかと不満をぶつけてくる。
「そもそも前提が違うの!! 私は貴方の強さについて知りたくて……」
「それは私から説明しましょう!! カイト様はお仕事を続けていてください!!」
「ありがと。じゃあ宿直室で待ってて、すぐ終わらせてくるから」
恐らく同年代の二人。同じ性別なのも相まって俺から話をするよりもいいかもしれない。
ということで二人には雑談でもしてもらい、俺は残った仕事を片付けることにする。
取り敢えず老朽化している校舎があったから、修復魔術でサクッと直しにいくとしよう。
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