四話 やっぱりお互い分かり合うには拳と拳が必要
「――ショボいわね」
「……そう、ですかね」
早速ミラ王女に学院への偏見(理事長曰く正論)を無くしてもらおうと講義の見学に。
しかしそれが裏目に出てしまったのか、感想はなんとも無慈悲なものだった。
「まぁ、普通にショボいですよね。基礎の基礎しかやってませんし」
「というかアイリスは本来あっち側にいるべきなんじゃ……?」
実際の生徒であるアイリスからもこの意見。生徒も教師も真面目にやってはいるのだが。
基礎は大事だと思う。基礎からきっちり学ばなければ魔術は大成しない。
「このレベルじゃ学んでいないのと同じじゃない。どこよりも優秀な魔術師を輩出するのが魔術学院の意義であって、凡夫を大量に生み出す環境は決していいとは言えない」
「誰であっても魔術を学ぶ機会は与えられるべきです。その為の魔術学院ですよ」
「説明した通りよ。他にも沢山あるのだから、ここだけの優位性を説いてもらえるかしら」
うん、流石に一国の王女をやっているだけあって弁が立つ。涙目不可避レベル。
まるで事前に用意してきたかのような周到な返答。こんなの言い返せるわけがない。
一縷でも期待した自分が馬鹿だったというような、呆れ顔をしたミラ王女は。
「この学院の全員が束になってきても私一人に敵わない。その程度の学院ってこと」
一転して全く興味が無さそうな顔で、俺とアイリスの前でそう言い放った。
その瞬間。俺の横にいたアイリスの雰囲気が一気に変わったのがすぐに分かった。
「言いましたね? この学院の誰が相手でも勝てる自信があると」
「言葉通りよ。もしかして貴方がお相手してくれるのかしら、可愛らしいお嬢さん」
アイリスの言葉を宣戦布告と取ったのか、ミラ王女は余裕を崩さずに返す。
そしてここまで笑顔なアイリスを見たことがない。なんだろう、嫌な予感がする。
「決まりですね!! 存分にやっちゃってください、カイト様!!」
「やっぱり俺だった!! さ、流石に王女様と勝負なんて出来な――」
「――へぇ、案内役でしかない貴方が? いいわ、やりましょ」
「あぁ、無情……」
俺の話なんて聞いちゃくれない。畏れ多いどころか、圧倒的不敬で殺されるんじゃ。
確かにこの学院の誰でもいいと彼女は言った。それには当然俺も含まれるわけで。
丁度すぐ傍に今の時間帯には使われていない演習場があるのでそこに案内する。
「あの、本当に戦うんですか? もし怪我とかさせたら……」
「あら随分と余裕ね。気にしなくていいわ、どうせ私の圧勝で終わるから」
適度な距離を空けて、ミラ王女に最終確認を取ってみたが答えは変わらず。
自分の勝ちは決まっているとでも言わんばかりの発言。それほど自信があるのだろう。
「ごちゃごちゃ言わずに始めましょ。これで戦意が折れなければ、ね!!」
「!!」
ご挨拶と言わんばかりの魔力の解放。ここで魔術師としての格が分かる。
確かに言うだけはあった。質が高い上に莫大な魔力量は、特級魔術師並みかそれ以上だ。
まさしく才能と努力の結晶。この学院を要らないというだけの実力が彼女にはある。
「あははっ、怖気づいたかしら!? 降参ならいつでも受け付けるわよ!! 勿論それが、この学院の最後になるってことを努々忘れないでほしいけど!! さぁ、どうする――」
「――この学院は、潰させないよ」
俺の行動如何で学院の今後が決まるのなら、中途半端な対応では許されない。
故に本気で魔力を解放させる。俺の本気程度で何とかなるなら出し惜しみはしない。
「……は? う、噓でしょ……何よ、それ……!?」
「余波だけでも死んじゃいそうです、カイト様~!! しかと目に焼き付けますッ!!」
魔力の解放は魔術師にとって基礎であり前提。あくまで魔術を展開する前の準備。
しかし優れた魔術師程その良し悪しが分かる。基礎でありながら魔術の全てなのだ。
(こんな、こんなの有り得ない……!! こんなの、格が違うってレベルじゃないわよ……!!)
だからこそ自ずと分かってしまう。これから行う勝負が無駄であるということに。
初めてミラ王女の表情が目に見えて崩れた。それは、焦りと恐怖が入り混じっていて。
「理解しましたか? 貴方が言い放った言葉には、彼も含まれていたのですよ?」
「ッ……!! カイトとか言ったわね……? 貴方、何者なのよ……!?」
この学院の誰にでも勝てると豪語した。仮に束になっても敵わないだろうと。しかし。
「カイト=ウォルグレン。レイアース魔術学院の用務員をやらせてもらってる」
彼女は、魔術学院における用務員という職業をあまりに知らな過ぎた。
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