第6話 姉妹の確執という壁 前編


 「グギャァァァアアアアアアア!!!!!」



 魔王はカスミンによって瞬殺された……チートが過ぎるよ霞美かすみさん。


 こうして俺たちの冒険はあっさりと幕を閉じた。どこからともなくエンディング曲が流れ始める。


「じゃあうちは先にログアウトするね~」


 鈴雫りんだちゃんの姿がすうっと消えていく。他のみんなも次々にログアウトしていった。最後に残ったのはおれと霞美さんだった。


 彼女は魔王城から見える綺麗な夕焼けを一人眺めていた。おれは彼女に近づき後ろから声を掛ける。


「最後の正拳突きも美しかったよ霞美さん」


「ジョニーさん……」


 彼女がこちらを振り返る。夕日を背に浴び、長い黒髪がオレンジ色に光輝いている。少し泣いていたのだろうか、彼女の瞳は潤んでいた。


 しばらく見つめ合うと、彼女は少し照れたように微笑んだ。


 やばい……美し過ぎるよ霞美さん。これがマジックアワーの効果か……


 おれはそっと彼女の頬に触れた。


「泣いていたのかい?」


 コクリと頷く彼女。おれは彼女の顎に手を添え、ゆっくりと顔を近付けていった。

目を閉じる彼女。二人の唇は少しずつその距離を縮め、やがて……


「ブーーーー!!! お時間となりましたので強制ログアウトとなります。ご利用ありがとうございました」


「ぬぉぉおおおおーーーー!! ノー ウェイ !!」


 おれはヘッドギアを勢いよく脱ぎ、叫んだ。


「おかえり~ジョニー。遅かったね? カスミンと何してたのかな~?」


「いやっっ……ちょっと冒険の余韻に浸ってたのさ。ハハっ」


「ほんとかなぁ? カスミンちょっと頬が赤いよ?」


「そっ! そんなことないよ!」


「まぁいいけど~じゃあお腹減ったからランチ行こ~!」


 

 おれたちはパーク内にあるモンスターレンストランなる店へとやってきた。

スライムゼリーにドラゴンステーキ。趣向を凝らした料理が取り揃えてある。


 『ゴブリンの耳が~』これは要チェックだぜ!


「そういやあの玉、結局使わなかったな」


 甚がゴブリンの耳を食べながら言った。鈴雫ちゃんが『キメラの手羽先』にかぶりつき答える。


「あ~あれ使うと魔王がハードモードになってめちゃ強くなるみたいよ」


「なっ!? カッキーそんなくだらんモノを拾ってたんか!」


 おれは『フェルリンのタン塩』をむさぼりつつ叫ぶ。カッキーは『ゴーレムの欠片かけら』をかじっていた。


「硬った! これ食べれんの? くだらんとはなんだよ! そもそもおまえが落として割ったじゃねえか!」


「あれ? これ美味しい」


 花瑠杏かるあちゃんは『ラミアの生血いきち』とか言う真っ赤なお酒を飲んでいた。(ブラッディ・マリー)とメニューには書いてあった。


「ところでカスミンそれおいし~?」


 霞美さんが食べているのは『ドラゴンステーキ』。血がしたたってない? そっちの方が生血なんじゃない?


「うん、結構いいお肉みたい。レアで頼んでよかった♡」

 

 嬉しそうに厚切りステーキをモグモグ食べる霞美さん。あれが強さの秘訣なんだろうな……うん。




 お腹も満たされ、おれたちは二人一組の分かれ自由行動をすることになった。


「「「「「はい! ぐっぱーじゃん!」」」」」


「やった~! うちとジョニーくんね♪」


 おれと鈴雫ちゃんがペアとなり。カッキーと甚、霞美さんと花瑠杏ちゃんがペアになった。


「いや、おかしいおかしい。なんでおれが甚とだよ!」


「それおれの台詞な。じゃもう一回四人で。ぐっぱ――」


「じゃあうちらお先に~行こっ! ジョニーくん」



 流石に目立つのでコスプレの衣装は着替えた。人気のテーマパークというだけあって家族連れやカップルで賑わっていた。そんな中、鈴雫ちゃんはおれの腕に手を回しむぎゅむぎゅしてくる。くっ……これが魅了魔法というやつか!


「リンダちゃん……お近づきになり過ぎじゃないかな?」


「えーっ、ダメなの~?」


「いやダメってわけじゃ……てかリンダちゃんって彼氏とかいないの?」


「うち最近別れたんだ~だからジョニーくんと同じでフリーだよ! んふふぅ」


「むふふぅ。ちなみになんで別れたの?」


「これまたジョニーくんと一緒で浮気されちゃったんだ~」


 そりゃまたなんとも……この世は浮気で溢れ返ってるのかい? こんなに可愛らしくてボイーンな子がいるのに満足できんとは。おれが物思いにふけっていると突然声を掛けられた。


「あれリンダお姉ちゃん? 何やってるの?」


沙来さら……一樹かずき……」


 おれたちに声を掛けてきたのは鈴雫ちゃんと瓜二つ、いや瓜四つくらいそっくりな女の子だった。違うのは髪型と服くらいで……いやお胸の双璧が鈴雫ちゃんより一回りデカイ。どういう事だ……おれはいろんな意味で混乱した。


「あれー? お姉ちゃん。その人は新しい彼氏? はじめましてーサラです」


「リンダちゃん……きみは幻影術も使えるのか?」


「……あれは妹のサラ。うちら双子なんよ」


「あっなるほどですね! はじめまして、リンダちゃんと同じ大学の譲二郎です」


「お姉ちゃんの彼氏さんですかー? かっこいい人捕まえたねー」


 そう言って彼女は上目遣いでおれに近づいてきた。横にいる男性が少し不機嫌そうな顔をした。


「ちょっとサラ! やめてよ! ジョニーくんは別に彼氏じゃないから!」


「なーんだ、そーなんだー。じゃあ行こ一樹。バイバーイお姉ちゃん」


 二人は仲良く腕を組み人混みへと消えていった。鈴雫ちゃんはなぜか悔しそうに涙を堪えているように見えた。


「なんかキャラ強めの人だったね妹さん。……? リンダちゃん大丈夫?」


 彼女は唇を噛んでわなわなと震えていた。いつもの天真爛漫な姿は影をひそめ負のオーラをまとっているかのようだった。


「さっき妹と一緒にいたのが元カレなの……」


「えっ!? 妹さんが彼氏の浮気相手だったってこと?」


「あの子は昔から私のものをなんでも欲しがるの。お菓子だっておもちゃだって……」


 彼女の目にはとうとう涙が浮かんできた。


「彼氏だってそう! 今まで付き合った人は全員サラに奪われた! 一樹だって……あんなに好きだったのに……うぅうえぇぇ~ん」


 ついに涙を堪えきれなくなり彼女はその場にしゃがみ込んだ。おれは彼女の背中をさすってあげるくらいしか出来なかった。


 おれには癒しの魔法は使えない……







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 更新が遅くなり申し訳ありませんっ!

別作品が大詰めで缶詰状態でした! ジョニーの方はこれからちょいちょい更新していくつもりです。


 お時間あれば別作品「散る花びら」の方も読んで頂ければ嬉しい限りです。

ちなみに最終話にちょこっとだけ未来のジョニーが出てきます。



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