【お題:なくしたくない】記憶

 小さい頃から、ずっと大事に握りしめていた。それが何なのか、もう忘れてしまった。


 ただ失くさないように握りしめていたそれは、もうこの手の中でぐちゃぐちゃになっている気がして、手を開くことすらできなくなった。


「先輩って、意外と子どもっぽいところもあるんですね、可愛いです」


 ふと、彼女のことを思い出した。私には勿体ない、とてもいい人だった。


 いつも爪まで可愛らしくしていた彼女。優しくて、一途で、温かった。


 もうナニかわからない、それでも失くしたくないもののせいで、彼女を随分傷つけてしまったな。


「先輩、大好きです」


 それでも私は、これがないと生きていけなかったんだ。


 ごめんね。

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