第26話

 上へ上へと登っていく。途中の通路や部屋には、宙空をぼんやりと眺めて座っているだけのゴブリンやコボルトが溢れていた。


 数がだんだんと増えていくが、いつからかそこに肉塊が混じるようになった。


 それに、ぶぅううううん。という重低音な耳鳴りもしている。


 レナが言う。


「何の音?」


 俺は前世の記憶から、まるで機械のノイズ音。特に冷蔵庫の音のように感じていた。だがそれをレナに言っても説明が難しいので「分からない」と答えておく。


 されに上へ上へと進む。


 するとゴウンゴウンゴウンという工業製品のような音が聞こえ始めた。こちらは洗濯機が近いだろうか。


 工業機械系の低いノイズ音。重く響き段々と頭が霞みがかったようにボンヤリしてくる。


 そんな俺たちの脇を、意識を朦朧とさせた様子のゴブリンやコボルトが、フラフラと何かに導かれるように、上へと向かって歩いている姿が目に入った。


 俺の中で何かが繋がった。


「音だ……」


 レナが首を傾げるので俺は説明をする。


「この音は意識を朦朧とさせる効果があるんだ。心身を喪失させて弱らせる」


 低周波障害のそれに近い? いやマインドコントロールか?


「そして意のままに操る」


 レナが首を傾げる。


「そんな事が出来るの?」

「出来るとされている。意識が低下した状態だと人は正常な判断を下せなくなるんだ。それがゴブリンやコボルトなら更に効果的なのかもしれない」


 誰だ?


 誰がこんな事をしている!


 まるでアチラの世界の科学を知っているような……


 頂上の部屋まで来た。いや。たぶん最上階だ。そこは闇だった。何故か真っ暗な室内。


 その部屋にゴブリンやコボルトが入っていく。ただただ吸い込まれるように。


 そして出て来ない。一匹も。


 何が起きているんだ。


 何度目になるか分からない疑問。中に入るのも躊躇われる状況。覚悟を決めてきたのに異様な状況が俺の足を止める。


 それはレナも同様だったようだ。


 二人して足を止めて、室内に入るゴブリンやコボルトの姿を見ていた。


 しかし。しばらく、そうしていた俺の横でレナが動いた。


「行こう」


 彼女が手を差し出している。しかし、その手は小さく震えていた。


「そのために、ここまで来たんでしょ? 私もよ」


 願いを叶えるため。恩人に恩を返すため。そのどちらもを達成するためには奥へと進まなければいけない。


 俺は歯を食いしばり力強く頷いた。


「そうだ。その為に来たんだ」


 二人で闇の籠もる室内へと足を踏み入れるのだった。

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