第13話

 世界は悪意で満ちているのかもしれない。


 そう思いたくなるほど辛い。


 いや。覚悟の上だっただろう。街の外がそういう場所だって。


「はぁ……」


 とりあえず街を目指して歩くしか無い。ここから次の街まで2日か3日では付くはずだ。峠越えをしなくてはいけないが。


 途中には野営地が点々とある程度。運が良ければ何か恵んでもらえるかもしれない。


 引き返すという道はない。引き返せば今度は野盗に命を盗られるかもしれないからだ。


「くっそ……」


 ふんぬと気合を入れる。目の前には峠に続く山道があるのみ。


「よし。行くか!」


 俺は無謀にも手ぶらで山道を登り始めるのだった。



「はぁはぁはぁ」


 喉が渇いた。腹が減った!


 でも水を汲む道具もなければ、狩りをするための武器もない。魔物に出逢えばその時点で即終了。


「くそったれ!」


 死なねぇぞ。俺はこんな所で死なねぇ!


 まだ何にも始まっていないのだから。今。俺を支えているのは復讐するんだという情念のみ。それだけで山道を登っている。すると目の前の道にコボルトがいた。


 しきりに鼻をスンスンスンスンとして辺りの様子を覗っているのが見えた。


 ヤバい。


 コボルトといのは犬が二足歩行をしたような生き物だ。鼻も聞くだろう。案の定。俺の存在に気がついたコボルトがニタリと笑った。


 俺は即座に逃げる。素手で勝てる相手じゃないのだ。


「くそ!」


 道を逸れて、山の中へ。後ろをコボルトが付いてくる。死にたくない。死にたくない。死にたくない!


 まだ復讐していないのだ。


 死にたくない!


 せめて、せめてアイツらの前で恨み言をぶち撒けてから死にたい。


 こんな……こんな何処ぞの山の中でコボルトに襲われて、誰にも知られずに死ぬのは嫌だ!


「ひぃ、はぁ、ひぃ、はぁ」


 幸いにして、コボルトは足が遅いようだ。まぁな犬だもの。二足で歩いてちゃいかんだろ。そう考えると運が良かっ……た?


 いや。まだ追ってきている。しつこい。どうやら匂いを追ってきているらしい。持久力で勝負することになりそうだ。


 くそぉ!


 俺はまた走る。


 山の中を一昼夜も走った。途中で流れる川を発見。本来なら煮沸とかするのだが言っている場合じゃない。後ろにはコボルトが追ってきているのだ。とりあえず飲んだ。そして、ふと気がついた。川だ。そう川だ。俺は川の中を移動する。しばらく川を遡上してから対岸へ。


「これなら追ってこれないだろう」


 はは。


 それからは慎重に進んだ。とにかく山を超えなくてはいけないのだ。魔物を避けながら移動するのだった。

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