第11話
村に到着した。2日ぶりの宿は温かかった。ゆっくり寝た。3日目も移動。4日目も移動。5日目も移動。旅路を急ぐ。野営をしたり、村に泊まったり。お尻が痛いが、これも復讐のためと我慢した。
6日目。追い剥ぎに出会った。敵は3人の若者だ。手には農具の鎌や棒が握られている。荷物を渡すという選択肢はない。3人程度なら頑張ればいけるはずだ。
「かかってこいやぁ! ぜってぇ荷物は渡さねぇぞ!」
剣を構える。すると追い剥ぎは、お互いの顔を見て「お前が先に行けよ」みたいな仕草を始めた。どうやらまだ物取りになって日が浅い若者たちのようだ。俺は強気に出る。
「オラ! 来いよ! この剣で切り捨ててやるから!」
人を殺したことはない。それでも殺らねばならない時もある。でも、どうやらその時ではなかったようだ。若者たちは逃げ出したのだ。ふぅ。相手が素人で良かったぁ。
7日目も8日目も無事に旅を終えた。
9日目。
街道に馬車が停まっているのが遠くに見えた。手を振っている人も見える。女性だ。道端には大量の太ったオークの死骸。オークってのはイノシシの頭を持った人型の魔物だ。
「なんだろう?」
馬車を道に停めて駆け寄る。
「どうしたんですか?」
尋ねると女性冒険者が言った。
「オークの群れに襲われた。怪我人がいるんだが、包帯や血止めが足りなくて……もし良かったら譲ってくれないか? 買い取ろう」
今にも泣きそうな表情。見ると女性冒険者も怪我をしている。他にも怪我人が多数だ。辺りには子供の泣き声がしている。
俺はわずかに逡巡。自分用に作った回復薬を提供するかどうかで迷ったのだ。
怪我人を見て回ると小さな子供や老人まで怪我をしていた。それも重症だ。
放って置くという選択肢が無くなった。
「これを怪我に掛けてください」
そう言って10本の液体状の回復薬を渡す。女性冒険者が怪訝そうな顔をした。
「なんです? これは?」
「……傷薬です」
「見たことのない形の傷薬だが……」
戸惑っているようだ。だが状況は逼迫している。こんな壊滅状態の中でさらなる魔物に襲われたら終わりだ。俺は強気で押す。
「使ってください!」
使い方の説明を行う。
「体内。例えば骨折とかなら飲んでください。体外の怪我ならそこに掛けて」
戸惑いがちにだが、それでも状況が良くないことを知っている女性冒険者は、まずは自分に使用した。ただし少量だ。お試しなのだろう。すると怪我にしみたのか、わずかに呻いた。しかし効果は抜群だ。血が止まり、皮膚がわずかに再生したのだ。
「これは!」
女性冒険者が驚きの声を上げる。
「わかったでしょう? 早く重症者に」
「あ、あぁ……」
女性冒険者は戸惑いながらも子供や老人に飲ませたり、怪我にかけたりしている。怪我人全員。女性冒険者自身も。それで10本全部使い切った形だ。
まぁ、また作れば良いさと軽く考える。少々痛い出費だが人の命には変えられないからな。
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