第10話

 天空の塔までは徒歩で半月はかかる場所にある。まずは、その近場の街に行く所からだ。道のりが長いな。


 街に付いたら、そこで家を借りないといけない。


 小さくてもいいから家を借りて、そこで回復薬を生産しながら天空の塔の攻略となる。


 とりあえず現状で作れた回復薬は10本だけ。この10本で街から街へ移動しないといけない。


「不安だな」


 街の外は危険でいっぱいだと言われている。実際に森にも平原にも丘陵地帯にも魔物は出る。盗賊はあまり居ないが、それでも運が悪ければ追い剥ぎぐらいには出会う時は出会うのだ。


 それが街の外だ。行商人なんかは護衛を雇ったり、キャラバンを作って移動したりしているらしい。冒険者は基本的に自衛だ。


 街で馬車を借りた。紛失すれば弁償だ。補償金も払った。結構な額だったので持ち金の、ほとんどを支払いに当てた形だ。


 荷物がそれなりにあるのでやむを得なかったのだ。


 主にガラス瓶などの実験器具ばかりだけどね。俺以外には価値の無い物ばかりだ。


 価値のある回復薬は自分で持って歩く。


「よし! じゃあ、行きますか!」


 俺は街を出発するのだった。



 ガタガタゴトンゴトンと音を鳴らしながら馬車が行く。正直な話をすれば少し緊張している。不慣れな馬車の操作にだ。ちゃんと隣町にたどり着けるのだろうか。


「不安だ」


 途中で馬車を休憩させる。だいたい一時間に一回入れるのコツだと教わった。結構な休憩頻度だが、まぁ荷物を牽いているのだ。仕方あるまい。お馬さんガンバ。


 1日目は、まだ何もなかった。まぁね。まだ街の周辺と言って良い場所で随時巡回の兵士が往来しているから当然と言えば当然だ。


 夜は野営をして過ごす。幸いにして他にも野営地には人が居る。行商人だったり駅馬車での旅人だったり巡礼者だったり。中には冒険者もいる。見張りはそこかしこに居る。


 でも俺は火の番をしないといけないのでウトウトしながら起きている。


「眠いな……」


 覚醒と睡眠を短い時間で交互に取りながら朝を待つ。


 2日目の朝。出発して早々に魔物が出た。ゴブリンだ。街道に出るのは珍しいと言っていたから幸先が悪いな。全部で3匹。御者席から飛び降りて剣を構える。


 さぁやるぞぉ。この日のために訓練してきたのだ。いちおう周囲は見晴らしが良い場所だ。奇襲はないと思って良い。まぁ油断大敵だが。


 まずは1匹目の頭を叩き切り速攻で狩る。そして2匹目と3匹目と対峙。相手は木の棒しか持っていない。なので強気強気で攻めることにする。


 これがナイフとか持っている個体だった場合は慎重になるんだけどね。


 ゴブリンが木の棒で地面をたたき威嚇している。


 そんな物を持って戦うぐらいなら、掴みかかって噛みつかれる方が、よほど怖いんだけどな。まぁいい。脅威度は低いと判断。俺は2匹目に斬りかかる。その際に回り込んだ3匹目に木の棒で叩かれた。


「痛っ!」


 うん痛い。でもこの程度なら防具で防がれる。致命傷とは程遠い程度の傷。青痣ぐらいにはなるかも。だが痛いものは痛い。頭にきたので3匹のゴブリンに少々八つ当たり。少し強めに斬った。ゴブリン3匹を相手取るのが俺の限界だ。


 もう少し戦闘に慣れれば、また少し変わるんだろうけどな。



 2日目は少々運が悪かったようで、朝にゴブリン3匹と戦った後。お昼の休憩中になんとまた魔物が出た。ツノウサギだ。肉食性の魔物で額に一本の大きな角がある。それで突進してきて獲物を一突きで殺し、その牙で仕留めた獲物を貪り食うという、おっかない奴だ。


 キキキと鳴いている。基本的に単独で行動する魔物だ。大きさは中型犬ほど。俺は剣を構えた。するとツノウサギ。勢いよく突進してきた。


「早っ!」


 聞くと見るとでは大違い。動きが早い!


 俺はとっさに横に飛んだ。すると俺の横にあった木にツノウサギが激突。ビイィンと突き刺さったのだ。間抜けが過ぎる。俺のお腹付近の高さの位置で木に刺さるツノウサギを、そのまま斬って捨てるのだった。魔石と毛皮と角を回収して肉は捨てた。肉食性の生き物の肉は不味いのでね。


 ツノウサギとの戦闘後は再び馬車だ。正直もうお尻と腰が痛い。これが後10日以上も続くのか……


「シンドし怠いわぁ」


 2日目の宿営地である農村を目指して馬車は進むのだった。

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