第9話

 コポコポコポと液体を煮立たせている。


 作っているのはトリートだ。


 あの親友に奪われた研究品のな。


 作り方のノウハウはあるのだ。再現できないわけがない。


 どうやら、このトリート。既に王都で話題が持ちきりになっているらしい。しかも発明した者の名前とともに。当然、発明者は元親友オーランドだ。


 クソッタレな話だ。


 王都から比較的遠い、この領にまで噂が駆け巡っているということは、すでに王国中に知れ渡っていると思っていいだろう。知らないのは辺境ぐらいか。


 そうか。あいつらは王都にトリートを持ち込んだのか。ならとっくに王の認可を受けているのだろう。そうなったらもう、どうすることも出来ない。きっと叙爵とかするんだろうな。


「くそ!」


 悔しい!


 思い出すたびに腹がグツグツと煮え立つ。自分の甘さにも腹が立つ。


 手元が震えて液体が溢れる。それを拭きつつ自分の今の惨めさに涙が溢れてくる。


 恨めしい。


 頭を左右に振って雑念を取り払う。とにかく今は、このトリートを作成しなくてはいけない。


 ゴブリンと戦って分かった。俺にはあまり剣の才能はない。人並みの運動神経。人並みの腕力。あるのは気迫だけというね。


 生き残れない。それだけでは生き残れないのだ。


 そう判断した。だからこそトリートを作ろうと思った。これさえあれば多少の無茶が出来る。怪我をたちまちの内に直せるのなら。即死さえしなければ戦い続けることが出来る。


 そしてもう一つの切り札が『鑑定』の能力が覚醒したことで得た『分解』の能力。これは『解析』と言う工程を得た後なら何でも分解が可能だ。つまり敵の解析さえしてしまえば即死させることが出来るのだ。ただし種族別ではない。個体別だ。


 どういうことかと言うと、ゴブリンにも個体差があるということだ。ちょっとした差なのだろうが、その差を解析しないと分解ができないのだ。


 つまりゴブリンを何体も解析して、ゴブリンへの理解を深めれば、それだけゴブリンを即死させるのも訳なく行えていくはずだ。


 そこを行くと人間は厄介だ。


 この解析と言う行為だが、その解析中は対象へと意識を割かないといけない。そのためには常に視界に入れていないと解析が進まない。どころか解析が中断されたりする。そうすればまた最初からだ。


 一人の人間を知る。解析するとは大変な作業なのだと理解する。


 話がズレたな。


 つまり、魔物を解析して理解していけば、それだけ俺は強くなれるというわけだ。時間は掛かるかもだが、それでもやり遂げなくてはいけない。


 残りの俺の人生のすべてを掛けて。


 あのクソッタレの元親友に一泡吹かせるのだ。


 元親友さえやれれば、独りになった元妻は勝手に自滅するだろう。そっちは直接、手を下す必要はない。というか……一度は心から愛した妻だ。手を出したくない、というのが本音か。


「はは。未練、だな」


 情けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る