第8話

 訓練は半月間も行ってくれた。季節は新たな年を迎えようとしている時期で、まだまだ寒い日が続く季節だ。たった半月間だったが俺は確かに成長した。だがまだまだだ。


 もっともっと頑張らなければいけない。本当に基本の基本。どう自分を鍛えるのかを習ったに過ぎないから。


「よぉし。今日やる課題をクリア出来れば俺たちが教える訓練は終わりだ。だが気を抜くなよ? 終わりじゃないからな? これからこれを続けていけるかどうかが大事なことだからな?」


 俺は「はい!」と頷く。


 今日は町の外での訓練のようだ。門を潜って町の外にある森に到着した。野外訓練は何度か熟しているが、今日はその仕上げだそうだ。テキパキとテントを組み上げていく。


「明日の朝だ。明日の朝まででいい。生き延びてみろ」


 2人の男はそう言って、去っていった。


「なんだ。そんなことか」


 そう気楽に構えていた。この森で魔物と言えば精々がゴブリンかコボルトが出る程度。楽勝だろう。


 森の中なので、時刻が分かりにくいが、たぶん昼前ぐらいだろう。野営をしていると森の奥からギャッギャ。ギィギィと声が聞こえた。ゴブリンだ。俺は立ち上がり剣を構える。


 すると予想通りにゴブリンだった。ただし2匹いる。


「2匹か……」


 1匹なら戦ったことがある複数となると始めてだった。でも決して殺れないことはないはずだ。ちょっと数が増えただけ。


 2匹のゴブリンも俺に気がついていたようだ。森の奥からヌッと出てきた。そして木の棒を地面に叩きつけ乱杭歯をむき出しにして威嚇を始めた。


 人間同士の剣の稽古のように、上品に挨拶から始まるわけではない。


 俺は剣を構えて2匹と戦おうとしたその時。突然、背中を殴打された。


「ぐあっ!」


 俺は衝撃で前に倒れる。


「なんだ!」


 後ろを振り返ると、そこにはゴブリン。


「3匹目!」


 どうやら後ろに回り込んでいたようだ。


 くそ。やられた!


 さすがゴブリン。狡賢い。


 って感心している場合じゃない!


 3匹目のゴブリンは木の棒を振り上げていた。俺はとっさに剣をゴブリンの腹に刺し込んだ。柔らかい腹にズブズブと剣が中腹まで刺さる。ゴブリンが悲鳴を上げた。


 しかし、これは完全に悪手。剣が3匹目のお腹から抜けない!


「くそ!」


 剣を手放し、予備武器のナイフを腰から抜き放ち最初の2匹と対峙する。相手は木の棒と錆びたナイフ持ち。剣がない今。優位性は無いに等しい。背中もズキズキと痛い。だが今は構っている場合じゃない!


 俺は雄叫びを上げる。


「ウォオオオオ!」


 そして自分を鼓舞するために大声で叫ぶ。


「かかってこいやぁ!」


 こんな所で死ねない。まだ復讐の旅すら始まっていない。訓練で死ぬ訳にはいかない!


 そこからは泥仕合だった。


 俺はナイフで危険度の高い錆びたナイフを持つゴブリンに飛び掛かった。


 取っ組み合いになる。


 ナイフを持つ右手を左手で押さえつけるが、小柄ながらも相手は魔物。人間よりもずっと握力と腕力がある。気がつけば取っ組み合いはゴロゴロと地面を転がっていた。


 どっちが上を取るかの勝負。結果は俺が負けていた。下から醜悪なゴブリンの顔を見上げる形に。木の棒を持っているゴブリンが興奮して木の棒を地面に叩きつけている。


 まだだ。上を取るゴブリンが体重をかけてきた。グググと顔が近づいてくる。くそったれ。口が臭い!


 俺はわずかに動く額をゴブリンの鼻面にぶつけて頭突きをする。ゴブリンがグギャっと悲鳴を上げて拘束が緩んだ。俺は右手を振り上げてゴブリンの左腕を切りつける。またゴブリンが後退した。今度は押し出すように蹴りを入れる。更に距離が開いた。そして俺は走って距離を詰めてゴブリンの頭にナイフを沈めたのだった。


「もう一匹は……」


 そう思って振り返ってみると、そこには何も居なかった。逃げ出したようだ。


「ふぅ。助かったぁ」


 ちょっと無様な戦いだったが、それでも勝ちは勝ち。やはり本物の命のやり取りの場は違う。ゴブリンも必死に生きているのだ。


 俺はゴブリンの解体を行って、その胸から魔石を取り出してわずかな時間、黙祷を捧げる。


「俺の糧になってもらう」


 こうして俺は、わずかばかりの収入と大きな経験を得るのだった。

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