第7話

 男二人と飲んだ。食った。騒いだ。愚痴った。


 男二人に何があったかも話した。


「そうか」


 二人は、そう言った後は「飲め」とだけ言った。他には何も言わなかった。俺が酔いつぶれ、酒場の机で突っ伏していた時。二人の男が会話をしていた。


「いいのか。止めなくて」

「あぁ。今コイツから生きると言う意志を挫く方が不味い」

「それはそうだが……」

「復讐だって立派な活力だ。もし今。そんな事やめろと言われて、彼に何が残る?」

「……」

「俺に出来ることってぇと剣の稽古ぐらいだな」

「そうだな。じゃあ俺はサバイバル技術だな。野営とか必要な薬品とか」

「あぁ。最低限。身を守って生きる能力を付けさせよう」

「まずは体力からだな。逃げるための体力」

「だな。まぁ知り合ったのも縁だ。面倒ぐらいは見てやるか」


 下手な慰めは要らない。同情も要らない。それが何になる。俺は二人の男の気遣いに感謝して小さく「ありがとう」と呟いて眠りに落ちていったのだった。



 翌日は二日酔いで動けない俺に二人の男が言った。


「レノルさんよ。明日から俺たちがお前さんに生きるための技術を叩き込む」


 意識を失う寸前の会話を思い出した俺は、二人に聞いてみた。


「何故そこまでするんですか?」


 すると男達は言った。


「仲間だからさ」

「将来。もし同じ様に困っている奴と出会ったら、そいつを助けてやってくれ、な?」


 二人の男がそう言って笑う。


「将来……」


 そんな物が俺にあるだろうか……


「へっ。出来ることでいいのさ。その時のお前さんに出来ることで」

「それが冒険者ってもんだ」


 莞爾と笑う男達。俺は少しだけ未来を思った。でも幸せになる姿なんて想像もできない。俺は首を左右に振って、彼らにそう伝えた。すると二人が声を出して笑って大男が言った。


「あっはっは。まぁ今はそうだろうな。もし未来って奴がお前さんにあって、余裕があったらでいいさ」


 俺は素直にお礼を言った。


「ありがとうございます」


 少しだけ前を。未来を見れた気がした。


 それからの訓練は大変だった。走りに走らされたのだ。走った後は剣を振った。手には血豆ができ、それが潰れてもなお剣を振った。気力が潰えそうになるたびに彼らから叱咤が飛んだ。


「お前の復讐心はそんなものか! オラオラ。復習する前に魔物に食われちまうぞ! 動け動け! 動いていれば攻撃はそうそう当たらない! ヤバいと感じたらどんな手段を使ってでも逃げろ!」


 返事をするのも辛い。そんな過酷な訓練。だが俺は耐えきった。それもこれも復讐のため。俺は天空の塔を踏破するんだ。絶対に!

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