第6話

 さて、やるとなったら即行動した方がいいだろう。俺も若くはないのだ。


 冒険者ギルドで冒険者にならなきゃな。


 天空の塔とやらがある場所も、この街から徒歩で半月は掛かる場所にあるらしいし。俺は住んでいる街の冒険者ギルドの扉をくぐる。


 冒険者たちの視線が俺に向けられた。


 おぉ。雰囲気すげぇな。


 体の筋肉の付き方からして堅気じゃないのがよく分かる。今まであまり接してこなかった職種の人たちだから、そのせいでマジマジと立ち尽くして見てしまった。


 すると後ろで声がした。


「おいおい。扉の前を塞ぐんじゃねぇよ。邪魔だぞ」


 そう言われて横に避けながら後ろを振り返った。そこには俺よりずっと大きな男が2人も立っていた。


「なんだ? 仕事の依頼か?」


 俺に問うような声。


 俺は答える。


「い、いえ。冒険者になりに……」


 すると大男たちがキョトンという表情。数秒そうしていたが、すぐに正気を取り戻したようだ。


「お前がか?」


 俺は頷く。すると男達が笑った。


「ぎゃはははは。おいおい。冗談は余所でやれ。ここは、お前みたいなヒョロヒョロの奴が、お遊びで来る所じゃねぇぞ」


 そう言って、まるでハエを追い払うように手を振った。だがここで引き返す事は出来ない。


「俺は本気だ! 遊びじゃない!」


 すると男が少しだけ怪訝そうな顔をした後で、表情が一変。まるで鬼のような形相へと変わった。


「うるせぇぞ! お前の冗談に付き合ってるほど暇じゃねぇんだ! 失せろ!」


 凄む男。だが引けない。こんな所で引いている場合じゃないからだ。俺の方も怒鳴る。


「てめぇの方こそガタガタ関係ねぇやつが横から口を挟んでんじゃねぇ! 俺はやらなきゃいけねぇんだよ!」


 しばらくの間、睨み合う俺と男。しかし、そこで後ろにいたもう一人の男がフッと笑った。


「へぇ。良い気迫してんじゃん。なぁ?」


 そう言って俺の目の前にいた大男の肩を叩いた。すると大男の方も笑った。


「へっ。まぁいいだろう。お前の命だ。好きにしな」


 そう言って、俺の肩を叩いて言った。


「いい気迫と殺気だ。どんな事情があるのか知らんが、まぁその気持ちを忘れずに頑張れよ」


 戸惑う俺。なんだ? 突然。


 男二人組が俺に歩くように促した。


「おら。受付は向こうだ。ここで立ってるだけじゃ冒険者にはなれねぇぞ」


 そう言って男達はカウンターへ歩いていく。俺はその後を追う。男達がカウンターの受付嬢へと話しかけている。


「よぉ。このお兄さんが冒険者希望だとよ」


 すると受付嬢は俺に向かって「本気ですか?」と尋ねてきた。俺は答える。


「誰でもなれるはずだが?」


 そう言って睨みつけると、受付嬢が困ったように男二人組を見た。大男が言う。


「なんか訳アリっぽい。まぁ気迫と殺る気だけは充分だ。入れてやってもいいんじゃねぇかな?」


 すると受付嬢。


「まぁ、御二人がそういうなら……」


 大丈夫かなぁという表情だが、俺に引くという選択肢はない。受付嬢が用紙を取り出した。


「こちらの同意書を読んで問題がないようでしたら、お名前を書き込んで下さい」


 俺は同意書を読む。まぁ簡単に言えばギルド規定に従う。基本的に自己責任と言う内容だ。俺はサインを書き込む。すると書き終えた俺に言った。


「ようこそ。冒険者ギルドへ。歓迎……します、よ?」


 何で、そこで言い切らない!


 まぁいいや。どうでもいい。そんなことより俺の後ろに居る2人組だ。


「よぉ。飲みに行かねぇか?」

「ちょっと付き合えよ。お前さんの事情ってやつを聞かせてくれ」


 俺は「なんでそんな事をしなきゃいけないんだ?」と答えると、男達は言った。


「まぁいいじゃねぇか。その歳で冒険者をやろうっていう男の事情ってやつが知りたいんだよ」


 そう言って笑顔を浮かべる2人の男に、俺は少し戸惑いつつも頷いたのだった。

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