第5話

 ガヤガヤと騒がしい酒場。


 俺はどうやって、あいつらに復讐をすれば良いのかを考えた。


 が、分からない。


 全然これと言う方法が思い浮かばない。つくづく俺は、そういうのには向いていないらしい。でもだ。向いていないからやらないというのは無しだ。それじゃあ俺が立ち上がった思いが報われない。


 しばらく酒場の喧騒に耳を傾けていると、声が聞こえた。男たちの声だ。


「よぉ。聞いたか?」

「ん? 何をだ」

「最近よぉ。冒険者連中で噂になってんだがよぉ。何でも願いが叶う塔って奴があるらしいんだぜ」

「何だそりゃ? マジなのか?」

「あぁ。それで大金持ちになった奴が居るらしい」

「ほぉ。いいなぁ。夢がある」

「だがよぉ。その塔ってのは魔物がウジャウジャいるらしい」

「魔物かぁ。それじゃあ一般人には無理だなぁ」

「あぁ。でも冒険者なら、一発当てる事ができるかもな」

「いいねぇ。冒険者連中からしたら面白い話なんだろうなぁ」

「俺も冒険者になろうかなぁ」

「よせよせ。お前幾つだよ?」

「あん? 今年30だが?」

「歳を食い過ぎだよ。冒険者は若い内に始めて経験を積んで、30代では基本、引退するような過酷な職業だ」

「あぁ。それがあったか。くっそぉ今からじゃあ無理かぁ」

「あぁ。体がおっつかねぇよ」


 がたっと俺は椅子から立ち上がっていた。


 男たちが視線を俺に向けるが、気にしない。それどころか俺の頭と心には既にやる気の炎が渦巻いていた。今、塔の話をしていた男たちに歩み寄り聞いてみた。


「もっと詳しくその話を聞かせてくれ!」


 俺の異様な迫力に気圧されて、男たちは渋々と言った様子で話し始めたのだった。



 あれから俺は冒険者になるための情報も集めた。15で始めて30代では引退するような過酷な職業だとか。魔物と戦う職業であるとか。冒険者ギルドに加入する方法だとか。ランキング制度だとか。正直どうでもいい情報ばかりだ。俺は奥歯を噛みしめる。


「やってやる!」


 例えどんなに過酷だろうと。願い事は既に思いついた。


「やり直す。全てを。裏切る前に裏切れ、だ!」


 前世で見た世界にあった概念で、時間遡行というらしい。時間を巻き戻して過去に渡り、そして人生をやり直す。裏切った親友を裏切り、裏切る前の妻を取り戻す。


 それに何より俺には既に知識がある。研究で行ったおよそ10年の試行錯誤をすっ飛ばせるのだ。


 戻る先は17歳。もしくは20歳ぐらいか。まぁその辺はどうでもいい。間を取って18歳でも良い。


 クツクツと笑い声。今の俺は酷く歪んだ笑い顔をしていることだろう。だが知った事か。それがどうした。見てくれなんて、もうどうでもいいのだ。


「やってやる。どうせ一度は死んだのだ。いや。前世も含めれば2度、死んだのだ」


 あんな辛い思いは二度とゴメンだ。


 今度は、お前らが俺の味わった絶望を味わう番だ!

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