第4話

 入った酒場で飯を食う。食べるのは煮込み料理だ。酒を飲む。体が温まり始める。ハグハグ。ガツガツと食べていく。


 視界の端に文字が浮かんでいるのが見えた。


「何だ?」


 視線を動かすとコップの表面に『エール』と文字が浮かんでいる。どうやら俺が生まれ持った能力である『鑑定』の解析が勝手に発動しているようだ。


 見りゃ分かる。てか勝手に能力を使っていたのか。精神状態が未だに不安定なせいだろうと推測する。


 すると『エール』の文字が開けることがわかった。開くってのは解析を更に進めることだ。俺は眉間にシワを寄せる。


 鑑定の能力がエールを勝手に解析した事にも驚いたが、それを更に解析って……


 まるで何かに導かれているようだ。


「エールの主成分でも見れば良いのか?」


 俺は何の気もなしに解析を開いてみた。するとそこには見慣れない文字が。


『分解しますか?』


 俺は唖然とする。今までこんなのなかったぞ?


 試しに分解してみる。するとエールが水とアルコールとハーブと香辛料に別れてしまった。幸いにしてコップの中での出来事だったから誰にも気が付かれていない。


「嘘だろ?」


 試しに目の前にある煮込み料理も分解してみた。するとやはり水や塩。ハーブと野菜と肉に分解された。更に分解できるらしい。ためしに分解してみた。すると水が水素と酸素に分解できた……らしい。実際には目に見えなかったので分からないが分解した物質を解析した結果が鑑定に出ていたので、たぶん出来たのだろうと思う。


 塩も分解してみた。陰イオンと陽イオンに分かれた、らしい。これも目では確認はできなかった。


 しょうがないのでハーブを分解したら、数種類のパウダーに別れた。それぞれを解析すると普段よく使っているハーブになっていることが確認できた。


 ふむ。


 どうやら『鑑定』の能力のレベルが上ったらしい。だが……


「何に使えるんだ?」


 いちおう人間や生物も分解できるかもしれないが……


「ハッキリ言って興味ないな」


 この力で裏切り者二人を始末する?


 いやいや。それではつまらない。


 俺の復讐は、そんなものじゃない。心を折りたいのだ。絶望させたい。


 そもそもあの二人が何処にいるのかも分からないしな。


 能力が進化したのは嬉しいが、使い道はなさそうでちょっとガッカリした。

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