第三話 ぐちゃぐちゃ
ひろしにリードを付けた俺は、この馬鹿犬を連れて街外れの
古い玩具屋には所狭しと玩具が積まれている。今の俺の頭の中と同じで、ぐちゃぐちゃだ。
外にひろしを待たせ、俺は狭い通路を通って暗い店の奥へと進んだ。
見繕ったモデルガンの箱を重ねてカウンターの上に置く。店員の爺さんは震える手でそれらを抱えて、店の奥へと運んでいった。
「爺さん、この熊のぬいぐるみも貰うぞ」
俺がそう言うと、店の奥の爺さんは黙って手を振った。
俺はポケットから取り出したナイフでその熊のぬいぐるみの背中を切り裂いた。中には切り刻んだスポンジがぐちゃぐちゃに入れられている。俺はそこに手を入れ、中からスマートフォンを取り出した。
一件だけ登録されている電話番号に発信すると、すぐにボスの応答があった。
『遅かったな』
「どうなっている。もう二人も襲ってきたぞ」
『組織内に裏切り者がいるようだ。おまえの素性を明かし、賞金を懸けている』
やはり裏切り者か。俺が属している部署の人員は、このボスを含めて九人だ。その中の誰かという事か。
「で、俺はどうしたらいい」
『計画どおりに仕事を終えろ。今回のターゲットはひろしに持たせたとおりだ。援護は出来ない』
「了解した」
俺は通話を切り、スマートフォンを床に放ると、踏み割って壊した。
カタカタと音が鳴る。
爺さんが震える手で大きな紙袋を胸に抱えて戻ってきた。
袋の中には本物の銃を入れたモデルガンの箱が入っている。
俺が紙袋を受け取ると、爺さんは震える指で袋の中を指差した。覗くと、一番上に弁当箱が載せてあった。
「腹減るとしくじるぞ。持ってけ」
俺は爺さんに深く頭を下げて、その玩具屋を後にした。
ひろしを連れて、街を一望できる丘の上の公園までやってきた俺は、桜の木の下で弁当を開けた。当然、中身はぐちゃぐちゃになっていたが、感謝していただいた。
すごく美味かった。
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