第二話 ぬいぐるみ

 それにしても、情報が外部に洩れるとは。


 どうやら、俺の面は割れていて、敵はこちらの命を狙っているらしい。


 俺が公園のベンチで肩を落としていると、芝の向こうから白い犬が駆けてきた。ひろしだ。また何かを咥えている。まったく。


 項垂れる俺の前で急停止したひろしは、俺のブーツの横にそれを置いた。女性用のパンティーだ。組織の職員の物だろう。後で返す俺の身にもなって欲しいものだ。しかも、俺が欲しい物はそれじゃない!


 俺は、舌を出して目を輝かしている馬鹿犬の首輪に挟まれた一枚の写真を取った。熊のぬいぐるみの写真だ。俺は思わず眉を寄せた。


 今回のターゲットは「ぬいぐるみ」か……。やれやれ。


 俺は周囲を見回した。


 向こうの遊歩道をランニングしている若い女性の二の腕には兎のぬいぐるみがしがみついている。


 あっちの自動販売機の横でゴミ箱から空き缶を回収しているホームレスの男が押すカートにはボロボロの猫のぬいぐるみ。


 今、俺の前を横切っていった少女は犬のぬいぐるみを抱いている。


 そして、俺の隣のベンチに座っている等身大の熊のぬいぐるみ。膝の上にはなたが置かれている。


 さて、どれが殺し屋か……。


 熊のぬいぐるみの前でさっきの少女が立ち止まった。その顔をじっと見上げている。


 俺の足下でひろしが顔を上げた。鼻をピクピクと動かす。


 若い母親が少女の横にかがんだ。二人で熊のぬいぐるみを見ながら、何やら楽しそうに話している。と、その母親の臀部でんぶにひろしが鼻をつけた。尻尾をピンと立たせて熱心に臭いを嗅いでいる。


 母親は悲鳴をあげて少女を抱きかかえると、向こうに逃げていった。ひろしが追う。


 その時、熊のぬいぐるみが俺に向けて鉈を振り上げた。俺は上着の中の消音器サイレンサー付きの銃の引き金を引く。


 ベンチの上に倒れた熊のぬいぐるみは、そのまま動かなかった。


 俺は足下のパンティーを拾うと、溜め息を吐いて、ひろしの後を追った。

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