森の脱出戦④
「助けていただき、ありがとうございます」
親し気に話しかけて来た相手に対し、ゼルバも同じように親し気に返事をする。
そこから少し離れた場所にギヨウはいたが、そこにシルルが近づいてきた。
「先ほどの話の続きだが。確かに、外の国の者はユガルア大陸の者は嫌っているし、縄張りに入って来たら、今のように殺してしまう。だが、ゼルバ様だけはこの森の民とだけ、交流をし続けてきたのだ」
「そ、そうか」
話が途中だったからと言うよりは、わざとらしく回りくどく話したのだろうと、ギヨウは考える。
つまり、単純にギヨウをからかっただけなのだ。
とはいえ、話が途中で途切れたのは偶然ではあるので、すぐに話す気ではあったのだろうと推測できるが。
「何をしているのですか?行きますよ」
そんな話をしている間に、ゼルバの方も話が終わったようで、既に全員でぞろぞろと歩き出していた。
更に、気が付いたらギヨウの隣からシルルさえも消えており、ゼルバの隣へと位置どっている。
「今行くよ」
ギヨウは、急いでその後へと着いて行くのであった。
♦
走り続けて来たこれまでと違い、一行は歩いていく。
しかし、やはり森の民達は歩き慣れているのか、その進みは速かった。
それでも、こんなに悠長に歩いていていいのかと、ギヨウは少し心配になる。もう陽も落ち始めているのだから。
「そうか!それは大変だったのぉ!」
大柄な男とゼルバは先頭で会話している。
そして、ギヨウは一番後ろを歩いていた。
だから、ゼルバの声は聞こえないが、大柄な男の、見た目通りの声のみが、ギヨウの耳に聞こえて来ていた。
察するに、状況を説明しているだけだろう。
ギヨウの近くには、先ほどギヨウ達の近くの賊へと弓を放った少女が一人だけ少し離れて歩いていた。
殿を務めているというよりは、彼女だけが少し他の者と隔たりがあるようにギヨウは感じる。
だから、近くにいると言っても、ギヨウは彼女に話しかけることはしなかった。
ただ黙って、歩き続けるだけである。
そして、気が付いたら森の合間に開けた場所が見えてくる。
「大きいな」
そこには、ギヨウが思ったよりも大きい村があった。
「ここの人口は100人程よ」
ギヨウは話しかけたつもりではなかったのだが、たまたま近くにいた少女は答えた。
「ここのって事は、他にもあるのか?」
「そうね」
単純に興味が湧いたので聞いてみたが、少女は短く答えるのみである。
そして、それきり黙ってしまう。
少女の代わりに、ゼルバがギヨウの近くまで寄って来た。
「歓迎の宴を開いてくれるそうです」
誰が歓迎されているのかと言えば、ゼルバが歓迎されているのだろう。
「そんなにゆっくりしていて大丈夫なのか?」
言うまでもない事だが、賊に追われている最中である。
「この深い森で、この村を見つけるのは困難です。それに、戦いになっても負けることはないでしょう」
「そうだな」
だからと言って、宴を開く理由はないのだが、今日は色々あったし、ギヨウも疲れていたし、腹も減っていた。
「楽しみだ」
だから、素直に期待をする。
♦
街へと入ると、すぐに準備はされ、すぐに宴が始まる。
飯が出され、酒が注がれる。
ギヨウは元は高校生であり、酒など飲んだことはない。
だが、注がれたものを断る気もなく、初めて酒を飲んだ。
(よくわからないな)
初めて飲んだ酒は、旨いと言えば旨いし、まずいと言えばまずかった。
むしろ飯が旨かった。雑な味付けに雑な調理ではあるが、間違いなく飯は旨かったのだ。だから、ギヨウは途中から飯ばかりを食っていたのだ。
そして、一段落した頃に、ギヨウはゼルバの元へと向かった。
ゼルバは、最初の方は森の民達に囲まれていたが、気が付いたら森の民達は酒に溺れ、ゼルバを放って騒いでいた。
それでも、シルルはゼルバの近くを離れる気はなく、ギヨウが近づいたころでも、側に仕えて離れる様子はなかった。
「なあ――」
ギヨウが話しかけようとすると、ゼルバは手だけでそれを止めた。
「シルル。少しいいですか?」
「はい?」
ゼルバは、少し席を外してくれという意味で言ったのだが、シルルはそれを理解せずに、困惑したような表情を浮かべる。
ゼルバは、少し困ったような表情をしたあと言い直した。
「二人だけで話します」
シルルはそれを聞いて不満そうであったが、黙って席を外す。
(少し前なら反論されていただろうな)
少しはギヨウも信頼されたという事であろう。
シルルの代わりに、ギヨウはゼルバの近くに座り込む。
「楽しんでますか?」
「ああ、飯が旨いな」
「でしょう。私が伝えた料理法もあるのですよ」
「お陰様って事だな」
「それで――」
くだらない前置きをした後に、ゼルバは全てを見透かしたように話した。
「何が聞きたいのですか?」
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