森の脱出戦③

「こちらです」


 陽が傾きだし、周囲が暗くなっていく。

 そんな中でも三人は走る。敵が待ってくれるわけはないのだから。

 そして、ゼルバは先頭を走り、正確に後ろから追う二人を導いていく。


(どこかへ向かっているのは間違いないが……)


 ゼルバが走っていくのは道なき道である。先ほど説明された通りに、ここは国の外であり、道などあろうはずもない。

 しかし、ゼルバは迷うことなく動いている。

 ギヨウには、何を目印にしているのか見当もつかなかった。

 そして、それはやはり妙を部分ではあるのだが、ギヨウはまだ何も言わない。ゼルバの不審な点は多すぎるし、そもそも不審という点では、ギヨウの方が圧倒的に上である。


「なあ、外の国に向かっているって言ってたけど、国に戻るんだよな?なんで一回外の国に行くんだ?」

「賊は多いのです。森に逃げ込んでしまった以上、味方を増やせるとしたら外の国の者の手を借りる他ありません」


 そもそも、盗賊と言うのはたった二人の人間をこんなにも追うものではないだろう。やはり不審である。


「借りれるのか?」

「そうですね……説明しましたが、外の国の者というのは、我々の大陸から省いた場所です。つまり省かれたもの達が住んでいるというわけです」

「だから、大抵のものはユガルア大陸に恨みを持っている程だ」


 途中でシルルが勝手に割り込んでくる。やはり、ギヨウとゼルバが二人だけで話しているのが気に食わないようである。


「って、それじゃあ駄目じゃないか」

「ええ――敵です!」


 ゼルバが突然叫ぶ。

 再び敵の待ち伏せである。

 それなりに距離はあるが、賊は今度は隠れておらず、最初から姿を現していた。

 しかし、その数が問題で、先ほどの敵は4人。だが今回の敵は10人もいた。

 その人数差に、賊は勝利を確信しており、全員が余裕のある、不敵な笑みを浮かべていた。


「これは困りましたね」


 ゼルバはそう言うが、ギヨウからすると、その表情からは本当に困っているかは読めない。所謂ポーカーフェイスというやつである。


「やるしかありません!」


 剣を鞘から抜き放ったシルルではあるが、その台詞からも察せるように自信があるわけではない。


(ゼルバが戦えるかはわからない。あまりそういう雰囲気はない)


 ギヨウは考える。

 仮にゼルバが戦えないとしたら、シルルが5人、ギヨウが5人を同時に相手にしなければいけないということになる。


(シルルもそれがわかっているから、自信がなさげなんだろう)


 なんだったら、ギヨウ自身も計算に入れておらず、シルルが10人全員を相手にする気なのかもしれない。

 しかし、それはいくらシルルが強くても無謀だとギヨウは考える。

 だから、シルルが動けば、一緒に動くべく、ギヨウも鞘から剣を抜いて覚悟を決める。

 当たり前だが、ギヨウには逃げるという選択肢だけはないのだ。


 そんなギヨウの様子を見て、シルルは少しだけ微笑むと、


「行くぞ!」


 勇ましく声をあげて、走り――出そうとした。

 出そうとしたというのは、そうしなかったという事である。

 その瞬間、賊の背後から大量の矢が飛んできたからである。


「うわあああ!」


 その矢は賊に刺さり、半分ほどの賊はそれだけで絶命した。


「な!なんだこいつら!」


 残った賊も、矢に続いて、その後ろから現れた者達に襲われる。

 その者達は、弓を担いでおり、その弓から先ほどの矢の雨を降らせたのが窺える。

 弓以外の武器はそれぞれであり、剣はもちろん、短剣や、ハンマーのようなものを持っている者さえいた。

 そして、その全員がかなりの軽装であり、男は上半身裸で、鍛えられた体をまるで見せつけるように惜しみなく出していた。もちろん男だけではなく、女も鍛えられているのはよくわかる。


(強い!)


 そして、それは見掛け倒しではなく、一瞬で賊を倒してしまう。奇襲をしたというのもあるのだろうが、圧倒的な差が元々あるのは明らかである。


(見るからに、森に住む民と言う感じだよな)


 つまりは、この者達がゼルバの言う外の国の者であり、ゼルバ達、ユガルア大陸の人間に恨みを持っている者達という事になる。

 そして、ギヨウの心配の通り、賊を殺し切ったうちの一人の少女が、ギヨウ達の方へと弓を向け、矢を素早く放ったのだ。

 その動きに、ギヨウは一瞬だけ目を奪われてしまう。

 少女は、他の健康的な体の色をした者と違い、まっ白い肌に、整った顔、長く美しい髪、それに綺麗な蒼い瞳をしていたが、ギヨウからすると、目を奪われたのは彼女の美しさに対してではない。

 弓を放つ動作に、無駄な動きがなく、美しいと思ったから目を奪われたのだ。


「伏せろ!」


 すぐに気を取り直し、ギヨウは叫ぶが、そんな間もなく、矢はギヨウの近くを通り過ぎて行ってしまう。


「ぎゃっ!」


 しかし、ギヨウの後ろから聞こえて来た声は、聞き慣れない声であった。

 ギヨウが後ろを振り向くと、賊と思われる敵に矢が命中し、賊は絶命し、地面へと倒れ込んでいた。


「な、なんでだ?」


 つまり、外の国の者達は、ゼルバ達を助けたという事になる。それでは、ギヨウが聞いていた話と違う。


 そして外の国の者達は、武器を収めてぞろぞろとゼルバ達の元へと近づき、


「ゼルバ!よく来たな!」


 そのうちの一人の、先頭を歩いていた大柄な男がそう言い放ったのだ。

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