第140話
「ねえ、聖女って絶対に必要なんだと思う?」
私は婚約者候補たちを前にそんな質問を投げかけてみた。
聖女……それは伝説にもあるし、過去に実在しているし、その人たちがいてくれたから世の中が平和になったのか? って言われたらそうじゃないんだけども……。
そう、そうじゃないんだよ。
まあ色々と偉業をなしえたみたいな記述は歴史書にあるにはあるんだけども。
貧しい人々のために無償で奉仕活動をしたとか、知恵をもって豊かにしたとか、人を救うのに尽力したとか、惜しみなく財を投じたとか……うん、まあそんな感じ。
奇跡とかそういう話ではなかった。
伝説とかそっち方向でならあったけどね!
ただまあ、ヴァノ聖国の神官さんたちが重視しているのは私が『魔力』と『精霊』の双方の力を使えるから神聖視しやすいって点だと思うんだよね。
加えてこの大国の皇女っていうのもとても目立つ理由だ。
大国の皇女が聖女として選ばれ、創造神の妻である神子になりました……っていったらなんかすごそうじゃない?
頭悪い感想だけど、なんか御利益ありそうっていうか!
でもまあ、世の中が今大飢饉だとか天変地異がとか、魔王が出現しちゃった!!
なんてことは勿論ない。平和だ。
小さい争いや悲しい出来事はあちこちにあるのだと思う。
それこそ、私が母を亡くしたことやユベールが受けた扱いだってそういう中に入るでしょう?
「……なんかね。あれから毎日、マルティレスさんからお手紙が届いてて……」
受け取り拒否にしてもいいんだろうけど、父様の友だちだって聞いているし断りづらいって言うか。
でもその手紙に毎度毎度『聖女になるべきだ』って書かれちゃうとさあ。
「ぜ、絶対必要、とは……ぼ、僕は思いません。あの、手紙がご負担、なら……止めていただいては、ど、どうですか……?」
「うん、ぼくもその意見に賛成かな。別に聖女がいなくても今まで世界は平和だったわけだし、本人がなりたいわけじゃないなら放っておいてもらった方がいいよ」
ピエタス様とサルトス様の言葉はわかりやすく私を安堵させてくれた。
そうだよね、なりたいわけじゃないっていうかむしろなりたくないんだよ……!!
でも連日手紙で『聖女になるべきだ』を連発されると気が滅入るっていうか……これを父様や兄様たちに相談すると、大事になりそうだったから先にみんなに相談したくなってしまったというわけだ。
その気持ちも併せて吐露すると、フォルティス様が難しい顔をして腕を組んだ。
「……しかし先ほど二人が言っていたように、必要性は感じない。ここ百年、天変地異のようなことは一切なかったし、大きな戦乱があったわけでもない。なのに何故、あの神官はそれほどまでに姫を聖女にしたがるんだ?」
「そうだな……手紙の件を含め何故そこまで固執するのか確認するのがいいと思う」
「……それってやっぱり、父様よね……」
みんなに言われるとやっぱり普通じゃないのかなって思った。
百年くらい出ていない聖女が現れたら、それを連れ帰った神官の誉れになるのかなとかその程度に考えていたんだけど……それは軽く考えすぎだったのだろうか?
「うう……ソレイユ、父様のところに行く時は一緒に行こうね……!」
「きゅっきゅー!!」
可愛らしく私の前で胸を張るソレイユが、どことなくどや顔をしながらみんなを見ていたのは気のせいだと思いたい。うん。
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