第139話

 ソレイユはまだ私の肩に乗っても大丈夫なサイズだ。

 ふわふわした毛に覆われていて、羽はまるで鳥の翼のよう。それが四つ。

 普段はどこに収納しているかわからないけれど、気がつくと出ていて私の周りをビュンビュンと飛び回る。


 真っ白で、可愛い。

 庭を飛び回って綺麗な花を見つけて摘んでは私のところに戻ってきて、褒めて褒めてと言わんばかりに肩に乗って擦り寄ってくるところが本当に可愛くって可愛くってもう……!!


 四阿あずまやのテーブルの上にはソレイユが持ってきたお花がこんもりとした山を作っていたことに関しては、庭師に後で謝っておこうと思った。

 これは花瓶にはちょっと生けられないタイプの摘み方だったから……。


 でも可愛いからね! 善意だからね!!

 この無垢な目で見上げられたら断れないじゃない!?


「ソレイユー、ソレイユはずーっと私の傍にいてね!」


「きゅーぅっ」


 私が何を言っているのか、大体の意味は察しているのだろうけれど深くはわかっていないんだと思う。

 でも私が嬉しそうに笑うとソレイユはそれが嬉しい。


「……私がお嫁に行っても、結婚がなくなってお城に引きこもったとしても、聖女になっちゃったとしても一緒にいてくれるのはきっとソレイユだけだよぉ」


「きゅーう」


 抱きしめてすりすりするとソレイユは首を傾げていたが、抵抗はしなかった。

 ふわふわの体毛が気持ちいい。

 毎回思うんだけどソレイユのこの毛ってなんでこんなに触り心地がいいんだろう、かつてのシエルもなめらかで気持ちよかったけどそれとは違ってこのふわんふわんとした感触がだね……癖になるんだよね……もふもふ。


「その際はわたしも姫様についていってもよろしいですか」


「うーん、デリア。その気持ちは嬉しいけど、私がお嫁に行くのと城に残るのではかなり待遇が変わるんじゃないかなあ」


 とりあえず現在の兄たちとの関係で考えれば、もし万が一今の婚約者たちの誰とも結婚できなかった場合、そのまま城に残って何かしら皇族として公務をこなしながら隠居生活……ということになったとしても生活は保障してもらえると思うのだ。


 勿論、父様だったら『嫁に行かなくてもいい』って頷いてくれると思うし、むしろヴェル兄様とエレーヌ様は私を可愛がってくれているので、城に住むことだって許してくれると思う。

 ただ父様と兄様が許してくれたとして、将来生まれてくるであろう甥っ子か姪っ子かはわかんない世代にまで迷惑をかけるのはいかがなものかと自分でも思うのだ。


 そう考えるとどうしたって私は城を出て隠居生活、派手な暮らしを望んでいるわけではないが、対外的なことを考えれば今とは比べものにならないほど質素な生活を送るべきだろう。

 ちょっとでも貴族たちから反感を買わないためにもね!!


 そこまで考えると、その場合はずーっと私の傍にいるよりも城の侍女として残った方がデリアには旨味もあると思うんだよ、うん。

 むしろデリアに良い出会いを紹介できるよう、私が頑張らないといけないのでは……?


 聖女は……うん、なる気は一切ないけれども、そうなっちゃった場合は神殿で食べるものには困らないけど質素倹約を第一として神に祈りを捧げるばっかりの清く正しい生き方をしなきゃいけないんでしょう?

 それをデリアに付き合わせるわけにはいかない。


「……デリア、いい相手探すからね……!!」


「わたしよりも先に姫様の方ですからね?」


「冷静!」


「わたしはなんだかんだとお話はいただいておりますので……」


「初めて知った!!」


 ああいやそうか、最初こそ後ろ盾のない第七皇女付きってことで地方の男爵家令嬢であるデリアが城で働き始めたばっかりなのをいいことに私の専属侍女にしたって話だったけど……蓋を開けてみたら私は父様にも兄様にも、なんだったら最近は妃方にも可愛がってもらっているわけだ。

 そうなると私の専属侍女であるデリアの価値は爆上がり。


(……逆に迷惑なくらい、話が行ってたりしない……よね……?)


 まあデリアが飄々としているから多分大丈夫だけど! ね!

 思わず乾いた笑いが出たけど、ソレイユを抱きしめることで誤魔化した。


「まあ姫様が嫁げないなんてこと自体、あり得ないことなのでわたしはずっとついて行くつもりです」


「一緒にいてくれるなら心強いよ、でもその自信はどこから……」


「まず陛下が姫様の幸せなら何でもなさるであろうこと、兄殿下方も同様だと思われます。それから婚約者候補の殿方たちは個人的な見解ですが、大きな瑕疵でもない限り候補から外れることもないかと思われます」


 まあそれはそうだろう、国がバックアップしている状態での候補なわけだし。

 基本的に母国での問題は抱えていても、皇女の婿という立場になる分には一切問題ないからこそ選ばれた人たちだ。


(まあ、そうよね。よっぽどのことがない限り、私はあの四人のうちの誰かと結婚するんだよなあ)


 今のところ恋愛感情に発展するかもわからないまま、余計な聖女問題が出てきちゃったから困惑させられているわけだけども!


(それにしても前世じゃあいないも同然か、役立たずって言われていた私が今や皇女様で聖女様? ははは、差が激しすぎてどうしていいかわかんないわ……)


 ちょうどいいってのがないのか、ちょうどいいってのが!!

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