第141話
「父様、今日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「うむうむ。我が娘のためならばいくらでも時間を取ろう。持っていた案件など百や二百、宰相や文官どもだけでなんとかできるであろう」
さすがにそれはアウトですよ父様!
近くにいた宰相閣下が青筋立てながら顔色悪く笑顔を浮かべるって器用な芸を披露してくれたのを直視できませんから! やーだー!!
それはともかくとして、今日はきちんと父様に……そう、父様にお願いというか、言い方を一歩間違えたら国際問題起こしたりしないよね?
神官さんを追い出したとかそんなことになったらとんでもないことに発展したりしないよね!?
やりかねないから怖いんだよなあ!
「きゅー……?」
「大丈夫、ソレイユ。私ならやれる。大丈夫。オールオッケー、オールグリーン」
「ニア? どうした?」
「今日は! 聞いていただきたいことがあって参りました!」
「うむ、申せ」
「実は……」
少しだけ言葉を選びつつ、私は正直な気持ちを話した。
聖女になりたくないこと。
結婚にはやっぱり憧れがあって、婚約者候補たちとは良い関係を築けているのでいずれ彼らの誰かと結婚するのだろうと思っていること。
彼らもまたそう考えてくれている……と思っていること。これを言葉にするのはめっちゃ恥ずかしかった。
いくら自分の気持ちが変わらないと伝えても、マルティレスさんから何度もお手紙が届いて困っていること。
自分だけでは足りないなら、父様からも言葉を添えてもらえないか……とまあ要約するとこんな感じだ。
追い出したいとか教会と事を構えるつもりはないってことも念押ししておいた!
これ以上宰相閣下の胃痛が激しくなったらお仕事ボイコットされちゃうかもしれないもんね……そうなったらヴェル兄様が苦労するんだろうなっていやあの人もあの人で苦労かけてたわ。
けど、私の心配をよそに父様は額を押さえるようにしてかなり考え込んでいた。
「……マルティレスには余から伝えるが、あれはそう簡単には諦めるまい」
「ええ……!?」
「無論、聖女がいてくれたらと願う民心に、神官として添っているのも事実。だがもう一つの側面が、あやつをそこまで意固地に駆り立てるのであろう」
「もう一つの、側面……?」
「ニア。我が娘。近くマルティレスを交えて話す機会を設けよう。だがその前に、話しておくべきだと思う。それは余が伝えるべきことであるのだろうな……」
「父様……?」
苦虫を噛み潰したような表情の父様は、大きな大きなため息を吐いた。
宰相閣下も、少しだけ困ったような顔をしている。
私はなんでかわからないけれど、凄く……凄く不安な気持ちになった。
「ニア。マルティレスは神官としての名であると知っているな」
「は、はい。俗世と離れ、新たなる生を神官として過ごしているんですよね?」
「そうだ。あやつは……あやつのかつての名はピウス=レナトス・ツィットリア。我が妻である第七妃、そなたの母アイナ=メロウ、実兄なのだ」
な、なんだってー!?
さすがにそれは想像もしてなかったな、ここにきて親戚が現れた!!
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